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白い国籍のスパイ(下) の商品レビュー

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上巻の続きです。トー…

上巻の続きです。トーマス・リーヴェンは、ドイツ軍特別指揮官として働きますが、企んでいたのは、敵であるフランス・パルチザンの救出です。テンポがよく最後まで一機に読めました。

文庫OFF

2019/01/07

1960年発表、オーストリア人作家による独創的且つユニークなスパイ小説。恐らくジンメルは、ナチスドイツなどの非人道的蛮行を間近で見ていたはずだが、その実態をストレートに表現するのではなく、戦争の無意味さと、先導者/煽動者らの愚昧さを徹底したアイロニーを用いて描く。暴走する国家/組...

1960年発表、オーストリア人作家による独創的且つユニークなスパイ小説。恐らくジンメルは、ナチスドイツなどの非人道的蛮行を間近で見ていたはずだが、その実態をストレートに表現するのではなく、戦争の無意味さと、先導者/煽動者らの愚昧さを徹底したアイロニーを用いて描く。暴走する国家/組織の内側から変革を試みようとする主人公の揺るぎない気概が全編に横溢しており、いわば捻りを利かせた反戦小説としての読み方もできるだろう。筆致は簡潔で、舞台劇を小説化した趣きで躍動感に満ちる。 第二次対戦前夜。英国の銀行家として若くして財を成したリーヴェンは、祖国でもあるドイツ出張時に、否応も無く諜報員に仕立てられてしまう。共同経営者の裏切りによって全てを失いはしたが、智力と武術に長け、さらに多言語を操れるため、諜報と工作活動には適任だった。以後、英仏独の二重/三重のスパイとして、動乱のヨーロッパを戦争終結まで駆け巡ることとなる。 愛国心など端からないリーヴェンに、どこの国家であろうと帰属意識は無い。つまり「白い国籍」であり、アイデンティティを持たないが故に、己の行動基準を明確に律することができた。即ちそれは「敵味方問わず、絶対に人を殺さない状況を作り出すこと」だった。人殺しが使命となる任務を全うしつつ、人を殺めない己の信条に従う。この相反する課題をどうクリアしていくかが、本作の読み所となる。 戦時下において、リーヴェンは数多くの難題に対して瞬時に解決策を見出す俊英として活躍することとなるが、その困難を打破する有効な手段として用いるのは「料理」である。本作は様々なエピソードを書き起こした連作短編ともいえるのだが、敵や仲間を騙し引き入れる際に、リーヴェンは必ず料理の腕を振るう。転換をもたらし、人命を救い、平和へと導く。美味な料理さえあれば、道は拓ける。この大胆な発想が絶妙な仕掛けとなって作用していく。合間には、本作に登場する料理のレシピも載せて娯楽性も高めている。 プロットや構成、人物造形にパロディ色が強く、展開も現実離れしているのだが、決して嫌味にならないのは、筋金入りの平和主義者である主人公の叡智溢れる活躍によって、かえって陰惨な戦争の本質が浮き彫りになる鋭い批判性を有しているからだろう。さらにいえば、これまでの生ぬるいスパイ小説群を嗤う紛れもない「反スパイ小説」でもある。

Posted byブクログ