やさしい訴え の商品レビュー
泣くことだけが、自分を支えていた。 小川作品って二つの系統があるように思う。 「まぶた」「薬指の標本」系の作品と、「博士の愛した数式」系統と。 本書をどちらかに分類するなら、間違いなく後者だろう。 だけど、どちらの系統にも含まれる「狂気」が確かに本書にも存在する。 ...
泣くことだけが、自分を支えていた。 小川作品って二つの系統があるように思う。 「まぶた」「薬指の標本」系の作品と、「博士の愛した数式」系統と。 本書をどちらかに分類するなら、間違いなく後者だろう。 だけど、どちらの系統にも含まれる「狂気」が確かに本書にも存在する。 愛し合うことは、認め合うこと。 ただ抱き合うだけが愛じゃないんだ。
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夫の浮気によって居場所を失った瑠璃子は母の持ち物である別荘へ家出をする。 そして、近所に住みチェンバロを作っている新田氏と出会い、静かに緩やかに(あるいは一瞬の内に激しく)惹かれてゆくのだが、彼にはともにチェンバロを作る共同作業者としての薫さんという大事な存在がいて、深くしっかり...
夫の浮気によって居場所を失った瑠璃子は母の持ち物である別荘へ家出をする。 そして、近所に住みチェンバロを作っている新田氏と出会い、静かに緩やかに(あるいは一瞬の内に激しく)惹かれてゆくのだが、彼にはともにチェンバロを作る共同作業者としての薫さんという大事な存在がいて、深くしっかりと結びついている。 ストーリーの骨組み自体はどうということもない珍しくもないものなのだが、小川洋子さんによって丁寧につけられた肉は、繊細で狂おしくもどかしく崇高で、時に神聖とも言えるものである。 人の一生に勝ち負けなど決められないが、敢えて言うならば、瑠璃子は恋では負けたのだろう。しかしこの別荘への家出が彼女が生きる上でなくてはならないことだったことを考えると、瑠璃子は自分には勝ったのかもしれない。 風景描写がとてもすばらしい。 時間が流れるのを感じなくなるくらい何も動かないところで何かを考えたり、何も考えなかったりしてみたいものだ。
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