最後の物たちの国で の商品レビュー
”何もかもがばらばらに崩れたあと、そこに何が残るかを見きわめること。もしかすると、それこそが一番興味深い問いなのかもしれません。何もなくなってしまったあとに、何が起きるのか。何もなくなったあとに起きることをも、我々は生き抜くことができるのか。” ポール・オースターが描こうとした...
”何もかもがばらばらに崩れたあと、そこに何が残るかを見きわめること。もしかすると、それこそが一番興味深い問いなのかもしれません。何もなくなってしまったあとに、何が起きるのか。何もなくなったあとに起きることをも、我々は生き抜くことができるのか。” ポール・オースターが描こうとしたことは、主人公アンナ・ブルームの先の言葉に集約されているかもしれない。 “物が消えていくと、消えたものを思い出す努力を間断なくしない限りは記憶からも永久に失われていくのです” アンナのこの言葉からは、小川洋子さんの「密やかな結晶」を思い出す。それも当然で、小川洋子さんはインタビューで「密やかな結晶」を執筆する際に念頭にあった一冊として「最後の物たちの国へ」を挙げている。そしてどちらも「アンネの日記」をはっきりと想起させずにはいられない(こちらも小川洋子さんは、オマージュとして書いたシーンがあると述べている)。 苦難と困窮、絶望的な状況の中で、届く宛のない手紙を書く。 それは私はまだ生きている、生きようとしているという、全てを飲み込もうとする世界に対して抗う声だ。 そしてこの手紙は誰とは分からぬが、確かに誰かに読まれているのだ。 “私は思うのですが、人生には、誰も強いられるべきでない決断があります。とにかく、精神に対してあまりに大きな重荷を課してしまう選択がこの世にはあると思うのです。どの道を選ぶにせよ、結局絶対に後悔することになるのであり、生きている限り、ずっと後悔し続けるしかないのです。” “頑張れる限り、頑張ろうと思います。たとえそれによって命を落とすことになろうとも。” きっと作者であるオースター自身も、どこへ向かうか分からずに書き始めたに違いない。それでもアンナは、何もかもがばらばらに崩れたあとも、何もかもがなくなってしまったあとも、決して消失することなくその意思をもって、オースターをしてこのラストを書かさしめた。 ハッピーエンドではない。だが、アンナ・ブルームの尽きることなく静かに湧き上がる命の健全さが、この暗く救いのない物語の中で小さな蝋燭のごとく燃えている。 それは未来と希望への一条の光だ。
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職場の本好きサークルメンバーから借りた。 すごく面白かった。 死ぬまで走り続けるとか、暗殺を依頼するとか。 ディストピア小説とかいうヤツ。
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学生の頃に購入し、途中まで読んだが、何故か「何かの為に取っておこう」と思って、本棚に眠っていた本。 何か読む本がないかなと本棚を見ていて見つけ、読んでみる。 「一度物が消えると、その記憶も一緒に消えてしまうのです。」 滅び行くことを示唆するような国で、兄を探す妹が主人公。 ...
学生の頃に購入し、途中まで読んだが、何故か「何かの為に取っておこう」と思って、本棚に眠っていた本。 何か読む本がないかなと本棚を見ていて見つけ、読んでみる。 「一度物が消えると、その記憶も一緒に消えてしまうのです。」 滅び行くことを示唆するような国で、兄を探す妹が主人公。 確かに、世界観は廃退の感じで面白いが、後半其の設定を使いこなせていない感。 自分のメモに「ポールオースターの本を読みながらのんびり過ごしたい」と言うのがあり、以前読んだ洪の方が面白かったなと思うが、読書記録には記録がなく、はて、何の本を読んだっけかな。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
私が買って読んだのは、黄色っぽくてこんなに小洒落た装丁じゃなかったけど。 オースター作品でコレが一番好き。この創造世界から強烈に甘い誘惑を感じるのは、物欲世界に疲れてるからか?
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親友からの勧めで読んだ本。洗練されたディストピア。国家、言葉、衣食住、当然の日常を分解していった狂ってるけど現実味のある世界。主人公の気高さと強さ、どこまでも落として最期で感じる僅かな光がすごく好き。
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その国に行った兄からの消息が断ち 妹のアンナが後を追うことになった その国は確かなものが何もなく 最悪な環境を、最悪な状態で生き伸びなければならない アンナは無事兄を見つけ出して、帰ってくることが出来るのだろうか…… * 物語は過ぎし日の記録をつけて届ける、という形で展開して...
その国に行った兄からの消息が断ち 妹のアンナが後を追うことになった その国は確かなものが何もなく 最悪な環境を、最悪な状態で生き伸びなければならない アンナは無事兄を見つけ出して、帰ってくることが出来るのだろうか…… * 物語は過ぎし日の記録をつけて届ける、という形で展開していく 最初から100pくらい?までは延々と町の状況説明 がなされていて挫折しかける… くどい!!!!と言いたくなる やっと物語が動き始めたな…という辺りから少し面白くなってくるけど 内容が憂鬱なのには代わりない もうちょっとこう、切ないファンタジーな感じを想像していただけに 生々しいサバイバル小説がつらかった
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1900年代初頭に売り出されたピアス・アローを「黒塗りの半世紀前の自動車」と主人公が手紙に書いていることからみても、この話が近未来を舞台にしたSF小説ではないことが分かる。たしかに設定はどこまでも極端で、食料は勿論のこと、生活していく上での様々な物資や施設、設備、機構が失われた都...
1900年代初頭に売り出されたピアス・アローを「黒塗りの半世紀前の自動車」と主人公が手紙に書いていることからみても、この話が近未来を舞台にしたSF小説ではないことが分かる。たしかに設定はどこまでも極端で、食料は勿論のこと、生活していく上での様々な物資や施設、設備、機構が失われた都市国家では、人は死んでいくばかりで、もはや生まれてくる者はいない。 主人公アンナ・ブルームはユダヤ人。消息を絶った兄を探すために、周囲の反対を押し切って、ただ一人船に乗って、この国を訪れたのだ。そこへ行けば消息が分かると教えられた建物はおろか街区全部が疫病の蔓延を防ぐという理由で焼き尽くされていては手がかりはないのも同然だった。その街はたびたび交替する政府はあっても無きがごとき無政府状態に置かれていて、略奪は日常茶飯、エネルギーは屎尿から出るメタン・ガス、物品は再生され流通するものの新しく製造されることはない。日一日と物はなくなり、消えていく街では、死体すら燃やされ、エネルギーとなっていた。この国家がよくあるディストピア物のように、為政者たちや革命グループといった所謂上から目線ではなく、路上に生きるホームレス生活者となった主人公の視点から詳細に描き出されていく。この著者の筆にかかると、一日のうちに降った雪がとけて路上に溢れ波のようにうねった形でまた凍るという気候を含め、穴ぼこだらけの街路を資源になるごみを探してカートをひっぱって歩く人々の姿が奇妙なリアリティをもって迫ってくるのが不思議だ。 絶望的な状態とも見える日々の裡にあっても、人は憎んだり殺しあったりするばかりでなく、愛し合い、人との関係を求めるものらしい。助けた老女に助けられ、住む家を得て、少しずつアンナはこの街での生活に馴染んでゆく。ふと飛び込んだ国立図書館の一室で兄を知る青年と出会いともに暮らし始めるのだったが、裏切りに出会い命を失いかける。この小説は、青いノートに記された、故国に住むかつての恋人宛に書かれたアンナの手紙である。 例によって、限りなくゼロに近づいてゆく世界を描いている点で、まちがいなくオースター的世界が現出する。しかし、今回は男性でなく、女性が視点人物となっている点が目新しい。女性から見た女性、或は女性から見た男性という視点で描かれる人物描写が新鮮で、また魅力的な人物に事欠かない。図書館で出会うユダヤ教のラビやウォーバン・ハウスに食料その他の調達を担当するボリス・ステパノヴィッチなど。 作者は、1970年代どこからともなく自分に語りかける声を聞き、「聞き書き」のようにしてこの小説を書いたと語る。この小説を近未来小説とみられることを厭い、これらは20世紀の現実社会から想を得ているとも語っている。たしかに、海をひとつ隔てたら、現在も世界のどこかの国で日々の食料に事欠き、満足に眠ることもできない人々がいくらでもいることを我々は知っている。知ってはいるが、我々はそれを見ようとしない。見てしまえば、それは確かに存在し、存在する以上、捨てても置けない。それは実に厄介なことであり、自分ひとりにできることは限られていて、何かをしようと思えば、その無力さの前に絶望的な思いをしなければならない。だから、我々はそれらを見ない。見なければないものとしておけるから。毎日その世界からは何かが消えてゆく。しかし、アンナは生きている。我々が見ようとしない世界の中で。もしかしたら、その国とは私たちの隣の国かもしれない。作家は、目を開けて世界をしっかり見なさいと読者に言いはしない。作家にできることはメッセージを発することではない。それは、言葉によって「世界」を残すことである。絶望的な世界を描きながら不思議に明るい眺望を与えてくれる稀有な小説である。
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この本は政府が統率力を失い、インフラから治安までがめちゃくちゃになっている国へ兄を探しに行った女性が、故郷のもと恋人に書き送った手紙の形をとっています。そこでの彼女の暮らしが描かれているのですが、文字通りの悲惨な状況から始まって、徐々に人と交わり愛や友情を得て(と書くと語弊がある...
この本は政府が統率力を失い、インフラから治安までがめちゃくちゃになっている国へ兄を探しに行った女性が、故郷のもと恋人に書き送った手紙の形をとっています。そこでの彼女の暮らしが描かれているのですが、文字通りの悲惨な状況から始まって、徐々に人と交わり愛や友情を得て(と書くと語弊がある上に安いんですが)はかないと判っていながらも、希望を取り戻すまでの話。 読んでいるといかに私たちが社会と政府に守られているかがよく分かります。あんな倒壊しそうで脆弱な政府でも。だからこそ私たちは自分の落とし前をつける根性があんまりないのかもしれない。責任って言葉が少しゆがんでいるのもそのせいかもしれません。 この本は世界に実際存在する紛争地域の悲惨さを描いているようで、そうではなく、紛争地域に対するアメリカ人のゆがんだ優越感と劣等感を表面化させようとしているのだと思います。自分たちが豊かで恵まれていることに対する優越感と劣等感を。そして、恵まれているという価値観の相対性に焦点が寄っています。 あーでもやっぱり考えてしまうな、と思いました。 電気つけておやつを食べながら本が読める人生って何だろうな、と。 でも私がそんなこと考えたって、紛争はなくならないし、優越感と自己満足のためであろうと寄付された金はやはり金なので役に立つのですよ。そして私は、安全と引き換えに濃密で静かな夜も、果てしなく広がる空も、天を目指す木々も持たないのです。 別に何が不満なわけではないのですが。 たまに、与えられたものと与えられなかったもの、手に入れたものと失ったものについて考えてしまうというだけの話です。余暇と記憶があるせいで。 それって何の配剤なんだろうな、と。 そしてそんな気持ちにこたえるために偶然という言葉はあるんだと思います。
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オースター中期の佳作と思います。愛をはっきりと語るのがめずらしいといえばめずらしいので、読んでいてその場面にとても力が入ります。生きていく力を感じるというか。
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