恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇 の商品レビュー
仇討の無意味さを批判してヒュマーニズムの勝利を描いた小説。のちに寛は、「文藝作品の題材の中には作者がその芸術的表現の魔杖を触れない裡から、燐として輝く人生の宝石がたくさんあると思ふ」と、この作品を例に説明している。作品の舞台は大分県の青の洞門で、江戸時代、僧禅海が托鉢で資金を集め...
仇討の無意味さを批判してヒュマーニズムの勝利を描いた小説。のちに寛は、「文藝作品の題材の中には作者がその芸術的表現の魔杖を触れない裡から、燐として輝く人生の宝石がたくさんあると思ふ」と、この作品を例に説明している。作品の舞台は大分県の青の洞門で、江戸時代、僧禅海が托鉢で資金を集め、石工を雇って掘ったという実話がもとになっている。
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恩讐の彼方に 主の妾と恋中になったことを責められた主人公は、死ぬのが当然とおもった。 おもったはずなのに、もう死ぬのだとおもうとどうにでもなれと立ち向かっていった。 次に気づいたときには、主はもう死んでいた。 妾に言われるまま3両とほかのものを盗んで、去る。去る道々で悪事がエス...
恩讐の彼方に 主の妾と恋中になったことを責められた主人公は、死ぬのが当然とおもった。 おもったはずなのに、もう死ぬのだとおもうとどうにでもなれと立ち向かっていった。 次に気づいたときには、主はもう死んでいた。 妾に言われるまま3両とほかのものを盗んで、去る。去る道々で悪事がエスカレートしていき 町に落ち着く頃には強盗をして暮らすのが当然とまで考えていく。 しかし若い夫婦を襲ったことで主人公がわれにかえる。 主を殺してまで一緒になった女だが、その女がおそろしくなる。 そして、僧になった彼は、自分の生涯の仕事をみつける。 旅人が毎年10人なくなる難所の工事を成功できれば、10年で100人、100年で1000人を助けられる。 そのために穴にこもってもぐらのように蚤ひとつで18年以上の時が過ぎていく。 そしてもうひとつのシーン。殺されてしまった主の息子があだ討ちで旅にでる。 ふたりとも辛く長い旅。そしてそのふたりがとうとう出会う。 でも、まだ殺さない。殺せない。 そして、ふたりともで工事をつづける。山を掘る。彫り続ける。そして貫いたとき二人は泣いた。 腰がまがり、日にあたらないことで目もくぼみ、こじきのようになってしまった、そしてすでに 人の形をほとんどとどめていないこの主人公を殺せなかった。
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これはすこぶるおもしろいよ。 10の短編からなり、強烈な話ばかり。 特に印象的だったのは、表題の2つと「蘭学事始」、「俊寛」。 「恩讐の彼方に」は、人を殺した男がただその罪を償うために二十年以上かけてトンネルを掘るという偉業を達成する話。 「忠直卿行状記」は、徳川家康の孫...
これはすこぶるおもしろいよ。 10の短編からなり、強烈な話ばかり。 特に印象的だったのは、表題の2つと「蘭学事始」、「俊寛」。 「恩讐の彼方に」は、人を殺した男がただその罪を償うために二十年以上かけてトンネルを掘るという偉業を達成する話。 「忠直卿行状記」は、徳川家康の孫、忠直が主人公。自分のために家臣が次々と切腹していく。他人に理解されない苦しみを描いたある意味恐い話。 菊池寛は「真珠夫人」だけじゃないよ。歴史物が好きな人は楽しめると思う
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いずれも歴史的実話に基づくと思われる10篇からなる短編集。「恩讐の彼方に」、「忠直卿行状記」、「藤十郎の恋」、「蘭学事始」、「俊寛」などを含む。 「恩讐の彼方に」は、私と同年代の場合「青の洞門」といえば、ああ、紙芝居で見たあれかと判るが、この年齢になって読むと、洞門の掘削を始...
いずれも歴史的実話に基づくと思われる10篇からなる短編集。「恩讐の彼方に」、「忠直卿行状記」、「藤十郎の恋」、「蘭学事始」、「俊寛」などを含む。 「恩讐の彼方に」は、私と同年代の場合「青の洞門」といえば、ああ、紙芝居で見たあれかと判るが、この年齢になって読むと、洞門の掘削を始めるに至った経緯に他人事でないと哀れを催してしまう。 「蘭学事始」では、杉田玄白と前野良沢とで蘭学や解体新書(ターヘルアナトミア)の翻訳事業に対する思いがいかに相違したかを主題として扱っており、興味深い。 歴史的実話に基づくというには、登場人物の心理描写が余りにリアルで、迫真的である。 しかも、現代の私達が大いに身に覚えのある欲望、後悔、嫉妬、猜疑心などをグイグイ指し示し、過ぎし体験を顔が熱くなるほどに思い出させ、戸惑わせることしきり。 文も現代人にとって決して過度でない古色さで、気持ちよく読める。
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