恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇 の商品レビュー
冒険研究所書店の選書で購入。 菊池寛の短編集。 タイトルにもなっている「恩讐の彼方に」「忠直卿行状記」のほか、「俊寛」など命の在り方を考えさせられる短編。 短い編は4ページほどだが、すべて読後に何かを感じさせる。 数年後に再読したくなる本。
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前近代の日本人の精神、心持ちをちょっとした出来事からうまく引き出している。 それが不思議と、色褪せず、心に響くのは、普遍性ある人生の在り様にフォーカスしているからだろう。 そのテーマは、永続性、普遍性のある、間違いなく物質的なものではなく、芯となる精神的な価値観だと思う。 それ...
前近代の日本人の精神、心持ちをちょっとした出来事からうまく引き出している。 それが不思議と、色褪せず、心に響くのは、普遍性ある人生の在り様にフォーカスしているからだろう。 そのテーマは、永続性、普遍性のある、間違いなく物質的なものではなく、芯となる精神的な価値観だと思う。 それは、大正、昭和と近代国家として日本が変わりゆく中で、置き去りになるような価値観であったのだろうし、現在でも、同じ意義を持って受け止めることができる。 ストーリーの展開も、捻ることなく(ドラマティックではなく)、ストレートなところが却って、安堵感があって心地よい。 あとがきより ・「芸術のためにだったら、私は一行も文章を書かなかっただろう」というショーの言葉を、そのまま彼は自分の信条としていた。人生のための文学しか彼の意中になかった。 ・菊池は、小説にはテーマ(主題)がなければならないことを主張した作家である。 ・「芸術のみに隠れて、人生に呼びかけない作家は、象牙の塔に隠れて銀の笛を吹いているようなものだ」
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解説:小島政二郎 三浦右衛門の最後◆忠直卿行状記◆恩讐の彼方に◆藤十郎の恋◆形◆名君◆蘭学事始◆入れ札◆俊寛◆頸縊り上人
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菊池寛。 名前は知っていたが、作品に触れたことはなかった。 市川雷蔵主演映画「忠直卿行状記」原作が含まれると知り、読んでみることに。 最初から飛ばしてる。現代人から見ると「うわあぁぁぁ…」な話から始まる。 命の価値や人々の常識が時代によって違うのは承知しているつもりだったが、こ...
菊池寛。 名前は知っていたが、作品に触れたことはなかった。 市川雷蔵主演映画「忠直卿行状記」原作が含まれると知り、読んでみることに。 最初から飛ばしてる。現代人から見ると「うわあぁぁぁ…」な話から始まる。 命の価値や人々の常識が時代によって違うのは承知しているつもりだったが、こう正面から描かれるとびっくりする。 こちらのびっくりを無視して、ただ淡々とあくまでも冷静に話は綴られてゆく。 なるほど文豪に分類されるのも納得。 いつかどこかできいた話や、有名どころも明快にわかりやすく書かれている。もちろんアレンジ入りまくりであるが、それはそれで面白い。 他の作品も読んでみたいと探してみたが、思いの外、書籍と鳴っているものが少ない。「真珠夫人」が手に入りやすかったがなにせ真珠夫人……こちらはゆっくりと読んでいこう。
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有名な九州耶馬渓、青の洞門の伝説を小説化した『恩讐の彼方に』、封建制下のいわゆる殿様の人間的悲劇を描いた『忠直卿行状記』は、テーマ小説の創始者たる菊池寛の多くの作品中の傑作として知られる。
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万城目学が「忠直卿行状記」をオススメしていたので、読んでみた。他に収録されている作品もそうなのだが、人間的な、あまりに人間的な、作品が多い。
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「恩讐の彼方に」 ・メインの人物たちはある意味善人であり、仏教や道徳のような、人間本来の善良さを肯定する物語。悪人は駆け落ちした女のみ。 ・主人公の主人を殺す始まり方が臨場感がある。物語に引き込む効果が高い。 ・主人公の殺人はすべて受動的であるというエクスキューズが物語の核...
「恩讐の彼方に」 ・メインの人物たちはある意味善人であり、仏教や道徳のような、人間本来の善良さを肯定する物語。悪人は駆け落ちした女のみ。 ・主人公の主人を殺す始まり方が臨場感がある。物語に引き込む効果が高い。 ・主人公の殺人はすべて受動的であるというエクスキューズが物語の核を弱めている。本来極悪の人間が何かのきっかけで、大きく考えを変える方がドラマチックになるのでは。 ・心理描写が説明的で明快。もう少し繊細にもやもやしながら恐ろしい表現をするとぐっとくるのでは。
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千年読書会、今月の課題本となります。 大分県で語り継がれる“青の洞門”伝説をベースとした、ノベライズ。 実際に名称は使われておらず、登場人物の名前も違います。 成り行きで“主殺し”の罪状を負った、了海(市九郎)。 そのまま逐電し、追いはぎにまで身をやつします。 罪を重ねてい...
千年読書会、今月の課題本となります。 大分県で語り継がれる“青の洞門”伝説をベースとした、ノベライズ。 実際に名称は使われておらず、登場人物の名前も違います。 成り行きで“主殺し”の罪状を負った、了海(市九郎)。 そのまま逐電し、追いはぎにまで身をやつします。 罪を重ねていた最中、ふとしたことで自身と向き合った彼は、 仏門に帰依し、自身の罪と向き合いながら全国行脚に。 そんな彼が、ふと立ち寄った町の難所(岩壁)を見て、 湧き上がるように“大誓願”を建てたのが、洞門を掘ること。 といっても、掘削機器も何もない江戸時代の半ば、 文字通りに槌一本で事業を始めます、、周囲には狂人扱いされながら。 1年2年で終わるような事業でもなく、 結果から言うと、20年以上の月日が流れます。 その20年の終盤、大願成就も間近かと思われたその時に、 かつて殺害し逐電した主人の息子、“実之助”があらわれます。 親の敵として了海を追い求めていた実之助、 彼もまた大願を果たすために旅を続けていたのですが、、 了海の大願に取り組む様子を見た実之助は、さて。 話としてはそんなに長くなく、さらっと読めます。 実際の逸話をベースに“人の心”を織り込みながら、 そのうつろいも映し出しながら、、 罪を消すことはできないが、赦すことはできる。 “恩讐の彼方に”とは、上手い題名だとあらためて。 戦前の教科書には“青の洞門”が掲載されていたようですが、 こういった話は教材に使ってみたいなぁ、なんて一冊でした。
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古い作家さんなので 読みにくいかと思っていたら 短編でドラマのような展開で 面白かった。 「ドラマ化したら良いのに…」と思っていたら 既にされているらしい。 真珠夫人の著者だったか!
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先に読んだ池内紀氏の「文学フシギ帖」をきっかけに読んでみようかなと思った菊池寛氏の作品です。 池内氏が紹介していたのは「入れ札」。本書の8番目に登場します。 菊池寛氏の作品としては、豊前国耶馬溪にあった青の洞門を舞台にした「恩讐の彼方に」などストーリーを知っているものもあり...
先に読んだ池内紀氏の「文学フシギ帖」をきっかけに読んでみようかなと思った菊池寛氏の作品です。 池内氏が紹介していたのは「入れ札」。本書の8番目に登場します。 菊池寛氏の作品としては、豊前国耶馬溪にあった青の洞門を舞台にした「恩讐の彼方に」などストーリーを知っているものもありますが、恥ずかしながら菊池寛氏の原作を読むのは初めてです。 本書に採録されているのは、「恩讐の彼方に」はもちろん、「忠直卿行状記」といった代表作に加え「三浦右衛門の最後」「藤十郎の恋」「形」「名君」「蘭学事始」「入れ札」「俊寛」「頚縊り上人」の10編。私にとっては、どの作品もとても面白かったですね。手垢のついたミステリーを読むぐらいなら、こちらの方が格段にワクワク感があります。
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