日本人の「あの世」観 の商品レビュー

梅原猛【著】

2020/03/21

梅原猛 「 日本人のあの世観 」 著者の持論が 従前の学問体系を壊していくような 論文集。

論文集
＊日本人の死後の世界観(あの世)と仏教の関係
＊日本文化論(縄文、アイヌ、沖縄)
＊柿本人麿と 古事記、万葉集、古今集
＊宮沢賢治 論

「水底の歌」より驚く
＊柿本人麿＝原古事記 作者説
＊藤原不比等との古事記、日本書紀、万葉集を巡る対立
＊古今集＝続万葉集 説

アイヌ、沖縄の あの世 観＝葬式が最も大切な宗教儀式→親鸞の浄土論に近い
＊あの世は この世と〜あまり変わらない
＊人は死ぬ→魂が肉体から離れ→あの世へ
＊人間だけでなく 生き物はすべて あの世へ行ける
＊魂はいずれ この世に戻ってくる

宮沢賢治の童話
＊思想は 既成の宗教や道徳の宣伝のためではない
＊新しい世界観を提供するもの→人間と動物は本来同じ
＊童話は 賢治の心象の中で実際起こったこと
＊童話は 田舎の田園の光と風から生まれた

2009/10/04

梅原日本學。
「隱された十字架」「水底の歌」「神々の流竄」「聖徳太子」などなど、日本古代史に斬新な發想から光をあてた著作から、いつしか「梅原日本學」といはれるやうになつた。

自慢ではないが、私は學生時代に梅原先生から「優」を戴いたことがある。（やはり自慢？）
その時のレポートのタイトルは、いまだに覺えてゐるが「祟り神の諸相」とした。
勿論、梅原先生の好みを忖度してつけたタイトルである。
同じレポートを國史學の上田正昭先生にも提出して、こちらは「可」であつた。
ちなみに同じレポートを、お名前を忘れてしまつたが宗教學の教授に提出して、「良」を戴いた。
ひとつのレポートで１２單位を獲得したのは、日本廣しといへども私くらゐなものだらう。（また自慢？）

さて、この本のことであつた。
この本は７つの論文から構成されてゐる、いはば論文集である。
これらの論文は１９８２年から１９８９年にかけて執筆されてゐる。

第一部は「世界の中の日本の宗教」「甦る繩文」「日本語とアイヌ語は異言語か」「基層文化としての沖繩文化」からなつてゐる。
梅原さんは、ここで日本人の信仰の原點は繩文文化に遡るのではないかと云ふ假説を提示してゐる。
死んだら「あの世」に行くと云ふ發想は、狩獵採集文化であるアイヌ文化に顯著であり、それは繩文時代の信仰形態に原型があるのではないか。
この信仰がベースにあつて、佛教も日本的にアレンジされたし、神道も佛教に寄り添ふやうにして發展して來た、と云ふ。
そして、物質文明を推し進めて來た「農耕牧畜文化」型の思想、即ち西歐の哲學體系は既に破綻をきたしてをり、これからは日本型（繩文型）の、自然との共存思想が見直されるべきだとしてゐる。

第二部は「原古事記と柿本人麿」「人麿をめぐる「萬葉集」と「古今集」」「新しい時代を創造する賢治の世界觀」からなる。
ここでは「水底の歌」での論旨を踏まへ、さらに徹底させた、その後の「人麿像」が提示されてゐる。
「原古事記」即ち天武朝で編纂された「帝紀・舊辭」に人麿が係はつてゐるのではないか。
この假説を、表記論や「古事記」の文學性から解き明かさうと云ふ試みである。

ただし、最後の「賢治」だけは少し毛色が違つてゐる。
宮澤賢治の世界觀は繩文の世界觀を通ずるところがあり、これからの世界にはこの世界觀が必要となる。
ここでは第一部でのテーマが、宮澤賢治と云ふ詩人の世界觀を分析することを通して、再度、別の視點から語られてゐる。

久しぶりに接する「梅原日本學」。
大膽な發想と「私には〜と思はれる」といつた、直感的かつ斷定的な物言ひ。
我が學生時代を懷かしく思ひ出すことと相なつた。

２００３年６月１８日讀了