冥途・旅順入城式 の商品レビュー
語り口の巧さにやられる。既に何度も読み返した短編集であるにもかかわらず、百閒の独特の語りに乗せられる怪異は飽きさせられることなくこちらに伝わり、独自の余韻を残す。主人公は絶えず受動的に状況に呑み込まれ、暴力的に進行する事態に為す術もなく、意味不明の言葉が飛び交う世界の中に置いてけ...
語り口の巧さにやられる。既に何度も読み返した短編集であるにもかかわらず、百閒の独特の語りに乗せられる怪異は飽きさせられることなくこちらに伝わり、独自の余韻を残す。主人公は絶えず受動的に状況に呑み込まれ、暴力的に進行する事態に為す術もなく、意味不明の言葉が飛び交う世界の中に置いてけぼりにされる。私たちもまた、百閒の描く不条理な論理/倫理に貫かれた世界の中で不安と孤独に苛まれ、オチのないストーリーに嬲られる。私が百閒を愛読するのはそして、そんな「嬲られる」ことの言いしれない快楽が存在するからなのだと思わされる
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夏目漱石の『夢十夜』を彷彿とさせるが、より、説明不可能性が高まって、ゾワゾワする。鈴木清順の名作、『ツィゴイネルワイゼン』や『陽炎座』の下敷きになっている、といっても今の人には分からないか。
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百閒のように現実と非現実を感覚的に行き来することって、かつて特殊なことではなかったと思う。 古典をさかのぼればさかのぼるほど現代の感覚とは大きく異なる世界観があって、たとえば夢が現実世界とリンクして解釈されていたり、自然現象により吉兆が判断されたり。 もし百閒を読む者がその文章...
百閒のように現実と非現実を感覚的に行き来することって、かつて特殊なことではなかったと思う。 古典をさかのぼればさかのぼるほど現代の感覚とは大きく異なる世界観があって、たとえば夢が現実世界とリンクして解釈されていたり、自然現象により吉兆が判断されたり。 もし百閒を読む者がその文章に名状しがたい怖さを感じるのなら、それは作品の本質がアンチモダンであることに耐えられない心情のためなんだと思う。 近代知が徹底的に排除してきたものを、我々の身体は意識下で拒否反応を示しているに違いない。 だから逆説的に百閒は現代にとって魅力的なんだと思う。
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世界を一発でっちあげて、そこで説得力のある不条理を展開、といふ恐るべき作業。 作者は西日本の人なので山東京伝とか豹のやうな、人口に膾炙したものとして「件」を取り上げたぽいのだが、発表当時はこの怪物は「内田百閒が作った怪物」として広まったとか何とか。てふか、山東京伝が異様であるや...
世界を一発でっちあげて、そこで説得力のある不条理を展開、といふ恐るべき作業。 作者は西日本の人なので山東京伝とか豹のやうな、人口に膾炙したものとして「件」を取り上げたぽいのだが、発表当時はこの怪物は「内田百閒が作った怪物」として広まったとか何とか。てふか、山東京伝が異様であるやうに、件も(まぁ人の頭を持った牛だから異常には違ひないんだけど)異様である。 あと、獣の描写が一々怖い。イタチ系とかは嫌。いい感じできもい。
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幻想的と簡単にくくれない、もっと禍々しくおどろおどろしい怪奇小説。 「これが自分たちを脅かしている」とはっきりわからない、道理の通らない怖さ。 「なにか自分たちを脅かすものが存在するのに、目に見えない・どのように動いているかわからない」といった、すなわち「得体の知れないもの...
幻想的と簡単にくくれない、もっと禍々しくおどろおどろしい怪奇小説。 「これが自分たちを脅かしている」とはっきりわからない、道理の通らない怖さ。 「なにか自分たちを脅かすものが存在するのに、目に見えない・どのように動いているかわからない」といった、すなわち「得体の知れないもの」がもたらす恐怖。 じわじわと来たるぼんやりとした不安、 ときにユーモアに軽妙洒脱に描かれている。 唐突に始まり、オチもなくおわる余韻が堪らない。 気づいたときには、全神経を尖らせている様な まさに「水を浴びた様な」冷ややかさ。 日常と夢想の狭間を描いた物語。 一篇読み終わるたびにほっと溜息をつくような 幾度も導かれるバイブル本。
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寝る前に一篇ずつ読むことを楽しみにしてた、内田百閒の冥途を、昨晩読み終わってしもうただがね。 一部例外あるものの、基本的には漱石の夢十夜みたいなお話がいっぱいはいっとるんや。 夢、幻想の世界でもその中心の「私」は、やっぱり我らが百鬼園先生なんやなぁ。 いつもウカウカキョロキョロ...
寝る前に一篇ずつ読むことを楽しみにしてた、内田百閒の冥途を、昨晩読み終わってしもうただがね。 一部例外あるものの、基本的には漱石の夢十夜みたいなお話がいっぱいはいっとるんや。 夢、幻想の世界でもその中心の「私」は、やっぱり我らが百鬼園先生なんやなぁ。 いつもウカウカキョロキョロしとるんね。 またそのうち読みなおそっと。
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まるで悪夢をみているような短編集。 夏目漱石の『夢十夜』をもっと突き放して不安をかきたてる感じにした…というと近いかもしれない。 特に好きなのは 『花火』『道連』『柳藻』『短夜』『豹』『冥途』『山高帽子』『映像』『水鳥』『雪』『木蓮』 『山高帽子』は怖かったけど、読んでる時か...
まるで悪夢をみているような短編集。 夏目漱石の『夢十夜』をもっと突き放して不安をかきたてる感じにした…というと近いかもしれない。 特に好きなのは 『花火』『道連』『柳藻』『短夜』『豹』『冥途』『山高帽子』『映像』『水鳥』『雪』『木蓮』 『山高帽子』は怖かったけど、読んでる時から薄々思ってはいたけど解説で野口のモデルはおそらく芥川と書いてあってなんだか余計気になるというか好きになった。
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おどろおどろしい内容が描かれているわけではないのに、ゾクッとするような怖さが染みてくる。そして、短編なのに、一つの話を読み終わったあと、すぐに次の短編に取りかかれないくらい、余韻が続く。しばらく景色を見たり、あとがきを読んだりして気分を変えないと、なかなか現実の世界に戻って来られ...
おどろおどろしい内容が描かれているわけではないのに、ゾクッとするような怖さが染みてくる。そして、短編なのに、一つの話を読み終わったあと、すぐに次の短編に取りかかれないくらい、余韻が続く。しばらく景色を見たり、あとがきを読んだりして気分を変えないと、なかなか現実の世界に戻って来られないような。かと言って、描かれている世界が異世界であったり、SFチックなわけでは全くない。だからより一層怖い。 (2015.2)
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妖しげで不気味な雰囲気を携える幻想短編集。 終始一貫した独特な世界観の作品の数々に、異世界に迷い込んだ気分になります。救いのない話から、どこかユーモラスな雰囲気のある話まで。 印象的なのは『件』。気付いたら件になっていて村人達から期待の眼差しで預言を待たれるという設定は実際とんで...
妖しげで不気味な雰囲気を携える幻想短編集。 終始一貫した独特な世界観の作品の数々に、異世界に迷い込んだ気分になります。救いのない話から、どこかユーモラスな雰囲気のある話まで。 印象的なのは『件』。気付いたら件になっていて村人達から期待の眼差しで預言を待たれるという設定は実際とんでもない話ですが、主人公の開き直りにも近い姿勢が逆に清々しく感じてこの作品群のなかでは一番気楽に読み進められます。 夏目漱石の『夢十夜』と類似していると聞きますが、本作の方が断然禍々しさを感じます。そこが堪らないのですが。
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大好きな幻想小説。久しぶりに再読した。ふとした日常の中に入り込む悪夢。そしてなに一つ解決しない。けれど、所々百閒先生らしいユーモアが混じる。それが物語の中から悲惨さを無くし、恐ろしい悪夢ながらも、なぜかスッキリとした読みごこちになる。そして、日本語の描写が美しい。
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