裏声で歌へ君が代 の商品レビュー
うん、やっぱり丸谷先生のお話は面白い! 20年ぶりくらいに読みましたが、お洒落で、反骨で、悲しくて、しかもエッチ(*^_^*)で。 主人公の画商・梨田が、知り合ったばかりの美貌の未亡人・朝子を連れていくのは 彼の友だち・洪さん(バナナで大儲けした後、日本でスーパーマーケット...
うん、やっぱり丸谷先生のお話は面白い! 20年ぶりくらいに読みましたが、お洒落で、反骨で、悲しくて、しかもエッチ(*^_^*)で。 主人公の画商・梨田が、知り合ったばかりの美貌の未亡人・朝子を連れていくのは 彼の友だち・洪さん(バナナで大儲けした後、日本でスーパーマーケットやホテルを経営。スーパーの店長として、たぶん(*^_^*)アラン・ドロンかジュリーのようなとんでもない美男・林さんが出てくる) の“台湾民主共和国”大統領就任パーティ。 もちろんそれは「まだ」ない、架空の国で、 「台湾人による台湾の統治を目標にして」日本で運動している、という設定なのだけど、 国家とは、という固い(はずの)テーマが随所に、しかも、結構長く語られているのに、 丸谷さん独自の筆致に助けられて、それがなんとも切実&身近な恋物語のように展開していくのが面白くてたまらない。 考えてみれば、私たちは毎日、国家の中で暮らしているのだから、身近なのは間違いないんだけどさ。 梨田は丸谷さんご自身を思わせる、全体主義嫌い、かつお喋りの楽しいお洒落な男性で、 なんと10代のころ、陸軍幼年学校中退、というか、その上の士官学校に行くことを拒否した、という経歴を持つ。 これって、ホントだったら絶対に考えられないことなんだけど、あれこれの道具立てで、うん、そういうこともあったのかも、と思わせられてしまうのが可笑しいし、そこに絡む、右翼や中国の大物が滑稽かつ、やはり恐ろしさを漂わせているあたり、巧いなぁ、と唸らされてしまう。 梨田と朝子の大人の恋の進展と、洪大統領の日常や“政治活動”が、とても面白く、かつ切なく語られて。 以前に読んだ時も、今回も、 台湾に住む洪さんの姪の話に強い印象を持った。 まだ小学生の彼女が日本に遊びに来た際、一番衝撃を受けたのは 銀座で、現内閣打倒をがなり立てている右翼の街宣車だったということ。 それは台湾では、重刑に値する大変なことなのに(戦前戦中の治安維持法のようなものだよね。) 誰もが無関心で通り過ぎ、また、そのあとに入ったデパートの豊富な物資に、 日本は自由にものが言える国だから、あんなにモノがたくさんあるのね、 と呟いたという・・・。 しかも、その姪は長じて・・・と話が続くと、 国 というものの力の大きさ、わけのわからなさ、そのくせ、とても卑近な存在でもあるということ、にドキドキしてきてしまう。 梨田や朝子、洪さん、その他、登場人物たちが皆、自分の思いをその都度、適切な言葉で表明し、その知的な佇まいのカッコよさ、好ましさに、うふふ・・・と嬉しさを感じながら、国というものも同時に考えてしまえる、という、ある意味、お得な小説、なんでしょうね。 とっても!!!面白く、(かつ切なく)読みました。
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本日は「源氏川苦心の快楽書肆」を更新する心算ではなかつたのですが、あまりにも悲しいニュウスが飛び込んで来たため、かうして書いてをります。 言ふまでもなく、丸谷才一氏の訃報であります。 いつかは必ず来る日であることは承知しながら、昨年文化勲章を授章した際のインタビューでまだまだ元気...
本日は「源氏川苦心の快楽書肆」を更新する心算ではなかつたのですが、あまりにも悲しいニュウスが飛び込んで来たため、かうして書いてをります。 言ふまでもなく、丸谷才一氏の訃報であります。 いつかは必ず来る日であることは承知しながら、昨年文化勲章を授章した際のインタビューでまだまだ元気な様子を見てゐましたので、やはり唐突の印象を免れません。 小説・評論・翻訳・エッセイ...それぞれが完成度の高い作品群ですが、わたくしとしてはやはり「長篇小説作家」としての丸谷氏が、一番力量を示してゐるやうに思ひます。 『笹まくら』も好いし、『たった一人の反乱』も唸らせるが、個人的に一番好きなのはこの『裏声で歌へ君が代』であります。 丸谷氏本人は「これは非政治的人間が書いた政治小説である」と述べてゐます。国家とは何かといふ、ややもすれば大上段に構へやすい問題を、観念的にならず物語の面白さでもつて鮮やかに問ひだたしてゐます。 もう丸谷作品の新作は読めないのだな、と思ふと残念でなりません。さういへば、わたくしの風貌は丸谷氏のそれと酷似してゐる、と指摘されたことがあり、とても親近感が沸いたものであります。(ただし頭髪が豊かだった頃の話) ああ。つらいので寝ることにします。ご無礼します。 http://ameblo.jp/genjigawa/entry-11378945526.html
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非常に面白い.ある種の軽妙さと重厚さが混交した巧みなプロットと文体.もっと早く読んでればよかったな.タイトルもなかなか見事.
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