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桜島・日の果て・幻化 の商品レビュー

4.3

16件のお客様レビュー

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2023/11/21

本のタイトルには無いですが、著者の最初の作品である『風宴』と『桜島』『日の果て』の初期三作品。そして、遺作となった『幻化』を収録。 『風宴』は学生時代、『桜島』戦中、『幻化』は戦後の著者の体験を交えて書いており、『日の果て』は兄の体験を聞いて創作。共通しているのは、どれも死を扱っ...

本のタイトルには無いですが、著者の最初の作品である『風宴』と『桜島』『日の果て』の初期三作品。そして、遺作となった『幻化』を収録。 『風宴』は学生時代、『桜島』戦中、『幻化』は戦後の著者の体験を交えて書いており、『日の果て』は兄の体験を聞いて創作。共通しているのは、どれも死を扱っていると言うこと。 『桜島』は「美しくて死にたい」と願っていた主人公が、後半の見張台で語る独白が、とても印象に残る作品です。ただ、高い本なのだから、兵器の名前を知らない人のために注釈は必要だと思う。 「銀河」は海軍の陸上爆撃機、「回天」は別名人間魚雷と呼ばれる特攻兵器、「震洋」もモーターボートの特攻兵器。ちなみに「銀河」の設計者は、特攻兵器「桜花」を設計したことから、戦後は平和を願い、新幹線0系を設計しています。 『日の果て』は、脱走兵を扱っている時点で珍しいですが、追っているはずの主人公の移り変わる心理描写と緊迫感がいいですね。絶望的なフィリピン戦線で、このようなこともどこかであったのではと思いました。こちらも地図も注釈もない不親切さです。サンホセやツゲガラオは、手持ちの『玉砕を禁ず』の掲載地図に名前がありますが、肝心のインタアルの場所がよくわかりませんでした。 『幻化』は、精神を病んだ主人公が病院を抜け出し、戦中に軍務に服した鹿児島に向かう飛行機で隣り合わせになった、妻子を失ったばかりの男との出会いから始まる物語。途中でいろいろな人との出会いの中で、過去の記憶を辿りながら正常と異常の狭間で煩悶する男。ラストは、狂気に苛まれて歩みを進める別の他人を見ながら、その姿を自分に置き換えて自分自身を鼓舞しているようなセリフが印象的でした。 ところで、精神を病んでいるとはいえ、ガラス製のビンを道端、崖下や防風林に捨てたりしているのは感心しないですね。ガラスビンが風化するのに100万年もかかるとか知らなくても、形状や材質から自然に帰りそうにないことくらい、わかりそうですけどね…

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2023/07/20

心情の描写がとても緻密で繊細だった。「桜島」や「日の果て」の戦争における中での主人公や環境の息苦しさや理不尽さ、そして「幻化」における「死」にじわじわと向かっていく者の空虚さの表現が素晴らしいと思った。

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2023/01/04

解説にある通り、他者に対する観察が非常に正確で、人への親愛を感じた。 遺作の『幻化』は読んで良かったと思える出色の出来だった。

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2024/05/13

戦争という事実の記憶は、戦後66年経って、まだどれだけ生きているでしょうか。私たちは、その記憶を保ち続けることはできるのでしょうか。 梅崎春生は、いわゆる「戦後派」の作家。梶井基次郎の影響を指摘される、鋭敏な感覚を持つ作家です。彼の代表作のひとつ、昭和21年9月発表の「桜島」は...

戦争という事実の記憶は、戦後66年経って、まだどれだけ生きているでしょうか。私たちは、その記憶を保ち続けることはできるのでしょうか。 梅崎春生は、いわゆる「戦後派」の作家。梶井基次郎の影響を指摘される、鋭敏な感覚を持つ作家です。彼の代表作のひとつ、昭和21年9月発表の「桜島」は、作者自身の体験をもとにした作品。終戦の迫る1ヶ月余りの時間を、鹿児島県の桜島の海軍基地で過ごす暗号員の話です。日本の敗色濃厚な状況で、情報がなかなか入ってこないことにいらだちと不安を隠せない上官や主人公の、極限に追い込まれた精神状態が描かれています。 「その夜、私はアルコールに水を割って、ひとり痛飲した。泥酔して峠の道を踏んだ時、よろめいて一間ほど崖を滑り落ちた。瞼が切れて、血がずいぶん流れた。窪地に仰向きになったまま、凄まじいほど冴えた月のいろを見た。酔って断れ断れになった意識の中で、私は必死になって荒涼たる何物かを追っかけていた」。無頼とも言えるこの文章は、実際に生命の極限に曝された時だけ生まれるものでしょう。梅崎の小説は、今もまだその時間を、本という印刷物に封じ込めているのです。 しかし一方で、今回この小説を再読してみて、私は、2011年という現在において、この小説が悲鳴を上げ始めていることも感じました。梅崎の体験をリアルに感じることは、それを阻むだけの時間がすでに経過していて、難しくなっているのです。いわゆる「戦争文学」の命脈が危うくなってきています。21世紀の現在において、戦争を語る意義を考えるきっかけとしても、読んでおきたい作品です。併録の「日の果て」、後年に書かれた「幻化」も、戦争を題材にした作品です。(K) 紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2008年8月号掲載

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2021/10/02

 初期の作品3つと、最後の作品「幻化」が収録されている。「桜島」などつとに有名なものはたぶん高校生の頃読んだと思うのだが、手元になく読み返したかったので買った。  それにしても講談社文芸文庫は高い。ハードカバー並みに2,000円するものもあり、ちくま学芸文庫よりも更に高い。売れ線...

 初期の作品3つと、最後の作品「幻化」が収録されている。「桜島」などつとに有名なものはたぶん高校生の頃読んだと思うのだが、手元になく読み返したかったので買った。  それにしても講談社文芸文庫は高い。ハードカバー並みに2,000円するものもあり、ちくま学芸文庫よりも更に高い。売れ線でない本を敢えて売っているラインナップは魅力的だけれども、高いのでなかなか手を出せない。異様な高さの代償として、一つ一つの巻末に「作家案内」や「著書目録」が入っているのは、それはそれで意義があるのだが。  本書の巻頭に収められている「風宴」(1938《昭和13》年)は24歳の頃書いた処女作で、翌年雑誌に掲載された。この作品は良くなかった。文学的表現を振り回しているけれども青年の心情の中身は空洞であり、意匠の乱発の割には読んでいてまとまったゲシュタルトが得られない。文学的意匠が空回りしているのだ。だから、なんだか無意味に気取って書いているようにも感じられてしまう。  しかし、そのような気取りは次の「桜島」(1946《昭和21》年)ではかなり緩和されている。作者が実際に召兵で赴任した坊津と桜島を舞台とするが、人物や出来事は全くのフィクションだという。戦争における小隊の空気がリアルに描き出されている。本編はやはり、日本の戦争文学として好個の作品と思う。良い。  続く「日の果て」(1947《昭和22》年)はフィリピンから復員した作者の兄から聞いた話を元にして書いたものらしい。ここでは、戦争で敵兵を殺戮するのでなく、規律から外れた仲間の兵士を命令によって殺害しに行く物語である。非情であらがえない「命令」という理不尽な正義のために、死んでいかなければならない人間の命の弱さが浮かび上がる。これも悪くないが、私は「桜島」の方が気に入った。  最後の「幻化」(1965《昭和40》年)は50歳で亡くなった梅崎春生最後の作品だが、これが素晴らしい作品だった。精神科病院から逃走し、「桜島」を書いた元となった作者自身の戦争体験やその前の学生時代といった記憶を蘇らせつつ、旅をするという、無意味なようでいて「死」に向かって、それに寄り添ってひたひたと歩み続ける生の空虚感、はかなさなどが読み進めていくとみなぎってきて感動させられた。  最近私は松本清張や横溝正史など、娯楽系の小説も多く読んできたところだが、本書などを読むと「文学だなあ」と思う。梅崎春生が受賞したのは直木賞の方だが、やはりこの作家は純文学の系列に属している。娯楽的な領域に住んでいるわけではない。  エンタメ系小説の読書と、純文学系のそれとでは、楽しみの質がやはり違っていると感じる。どちらもすこぶる充実したものであり得るので、全部を楽しんでいきたい。  梅崎春生はリバイバルの兆しが無く、講談社文芸文庫のラインナップも絶版となっているものがあるようだけれど、もう少し読んでおきたい。

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2021/07/14

梅崎氏の内面描写は本当に精緻だなあと感嘆していたけれど、解説をよんで彼に独特なのは他者への目線なのだという視点をもらって膝を打った。単に内省的なのではなくて、必ず心の動きと連関する他者の存在がある。だからこそつまらないモノローグにはならなくて、作中人物の心の動きが嫌に生々しいので...

梅崎氏の内面描写は本当に精緻だなあと感嘆していたけれど、解説をよんで彼に独特なのは他者への目線なのだという視点をもらって膝を打った。単に内省的なのではなくて、必ず心の動きと連関する他者の存在がある。だからこそつまらないモノローグにはならなくて、作中人物の心の動きが嫌に生々しいので、読者に対して己の中にもある昏い何かを、刺激してくるのだと思う。その生臭さとある意味風流な陰翳をもった彼の文章をとても好ましく感じる。その意味では特に『風宴』は秀逸だが、これが処女作だというのだから恐ろしい。

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2021/05/07

九州で読むにぴったり。戦争が描かれていた。 いまのわたしと感覚が合う気がするが、当時普通はこういうこと考えられなかっただろうなと想像する。

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2021/03/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

『幻化』 <空気のような狂気> 全体を通してユーモアなのか狂気なのか明確な線引きを拒む軽妙な語り口ですすんでいく。狂気があまりにも透明で空気のように紛れ込んでくるので、ふとするとわたしたちは知らぬ間にそれを呼吸している。 しかし知らぬ間に呼吸し得るということは、普段からわたしたちは同じ種類の狂気を呼吸しているということで、彼の語りはその正常と異常とが溶け合ったわたしたちのごく当たり前の世界を、ただ微視的に描き出しているということになるのだろう。 <おかしさについて> 「天才と狂気は紙一重」と言うけれど、梅崎春夫の作品を読んでいると「笑いと狂気は紙一重」のほうがしっくりくる。 おかしさとは笑えるものでもあり、狂っていることでもある。 <虚無と共にあること> 作品の最後で、主人公と偶然連れ合うことになったセールスマンは自分が飛び込むかどうかを賭け、阿蘇山の火口の周りをゆっくりと歩いていくのだが、その姿はぽっかりと空いた虚無の口のすぐ隣を、たどたどしい足どりで歩いていくわたしたちの姿そのものに思えた。 それを見て主人公は「元気をだせ!」と内心声をかけるが、ぐつぐつ煮えだす虚無が消えうせるわけじゃない。その横を荷物を抱え、汗を拭いながらなんとか歩き続けていくことしかできない。主人公も、わたしたちも、皆等し並みに。

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2020/03/16

『幻化』は、戦争文学である『桜島』とは異なり、戦後文学であるという点がやはりポイントなのだろう。戦争があり死が身近であった青春を振り返り確かめることを通して、生がよりくっきりと感じられた。 『幻化』を読んでいる最中は人称がいつも気になった。三人称で書かれていると思ったら、主人...

『幻化』は、戦争文学である『桜島』とは異なり、戦後文学であるという点がやはりポイントなのだろう。戦争があり死が身近であった青春を振り返り確かめることを通して、生がよりくっきりと感じられた。 『幻化』を読んでいる最中は人称がいつも気になった。三人称で書かれていると思ったら、主人公の幻想(?)では一人称的な書き方となっている。これによって、主人公の精神が本当に病んでいるのか、病んでいたとしてもそれによる幻想が必ずしも非現実であるとは言い切れないような感じとなっているのではないだろうか。 『日の果て』のラストはまるで映画のクライマックスのような時間感覚によって、主人公の心理に迫る描写が面白かった。 解説が良かった。解説者の本作に対する思い出話ほどどうでもよいこともない。このような解説が増えて欲しいものである。

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2020/03/14

なんと言っても「幻化」が素晴らしい。 過去にNHKのドラマとして、映像化されているらしい。 映像的な風通しと息苦しさに、読者は右往左往しながら、火口の男たちのセンチメンタルに息を呑みます。 こういった精神疾患を患った主人公を作品にした作品はとても多いけれど、これは決定版かも...

なんと言っても「幻化」が素晴らしい。 過去にNHKのドラマとして、映像化されているらしい。 映像的な風通しと息苦しさに、読者は右往左往しながら、火口の男たちのセンチメンタルに息を呑みます。 こういった精神疾患を患った主人公を作品にした作品はとても多いけれど、これは決定版かも。

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