八犬伝(上) の商品レビュー
「里見八犬伝」の虚構…
「里見八犬伝」の虚構の世界と、作者滝沢馬琴の現実世界が交互に描かれる。
文庫OFF
ずっと気になっていた南総里見八犬伝を、あの山田風太郎氏がモチーフにした作品を書いていたのを知り、入手しました。 滝沢馬琴が葛飾北斎にあらすじを語るという形式で作品世界と2人のやり取りが交互になっている構成なのですが、江戸文化の大物2人をこんな風に扱えるのは流石は大御所です。 作品...
ずっと気になっていた南総里見八犬伝を、あの山田風太郎氏がモチーフにした作品を書いていたのを知り、入手しました。 滝沢馬琴が葛飾北斎にあらすじを語るという形式で作品世界と2人のやり取りが交互になっている構成なのですが、江戸文化の大物2人をこんな風に扱えるのは流石は大御所です。 作品世界はあらすじと原書の中間ぐらいのものも思われ、出来事は忠実に追いかけているものの当時の人々の息吹があまり感じられないのですが、それでもなお面白いことは間違いない。 このまま一気に下巻に進みます。
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滝沢馬琴が葛飾北斎らと交流する「実の世界」と、その馬琴が描いた八犬士が活躍する「虚の世界」が交互に繰り返される。 「実の世界」が会話メインの「静モード」だとすると、「虚の世界」はスリル満点の大活劇「動モード」。 美人や善人が容赦なく絶命していく展開に無常を感じつつ下巻へつづく…。
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桜庭一樹の伏 贋作を読んだのだが、どうも納得がいかなかった。そんなところへこれをお勧めされたので読んでみた。実の世界で馬琴が考えているあらすじを北斎に話し、虚の世界としてそのあらすじが展開されるという形で話が進んでいく。現代語訳ではあるが馬琴の南総里見八犬伝を読了済の身としては、...
桜庭一樹の伏 贋作を読んだのだが、どうも納得がいかなかった。そんなところへこれをお勧めされたので読んでみた。実の世界で馬琴が考えているあらすじを北斎に話し、虚の世界としてそのあらすじが展開されるという形で話が進んでいく。現代語訳ではあるが馬琴の南総里見八犬伝を読了済の身としては、なるほどあらすじである。南総里見八犬伝を読んでみたいが手が出せない、という方には読みやすいかも、と思いながら読み進めていったのだが…。→下に続く。
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(上下巻まとめての感想です) 江戸時代に、滝沢馬琴が自作の構想を葛飾北斎たちに聞かせる「実の世界」と、 馬琴による「南総里見八犬伝」の物語である「虚の世界」が交互に語られます。 構造としては山田風太郎が馬琴の性格を書評などから推察して行って「馬琴はこういう性格のため、それが生活...
(上下巻まとめての感想です) 江戸時代に、滝沢馬琴が自作の構想を葛飾北斎たちに聞かせる「実の世界」と、 馬琴による「南総里見八犬伝」の物語である「虚の世界」が交互に語られます。 構造としては山田風太郎が馬琴の性格を書評などから推察して行って「馬琴はこういう性格のため、それが生活にこのように出て、その経験が八犬伝にこのように表れている」と、馬琴の人生と八犬伝を組み立てていっています。 馬琴の台詞として 「ある史実があって、その根を変えずに葉を変える。根を変えないからこをの稗史ー伝奇小説となる。ま、これが描く方も読むほうも一つの遊びになるのだね。 この世の遊びにはすべて約束事がある。約束事を守ってこそ遊戯になるのだ。史実に従って嘘をつく。私は戯作者としてこの約束ごとを守っているつもりだ」(上巻P49) と言うものがありますが、これなんてまさに山田風太郎そのものですね。 「虚の世界」は、八犬伝の大筋を馬琴が語る、という状況の為、わかりやすく纏まっています。 「実の世界」では、馬琴や北斎の半生、江戸の庶民生活、当時の戯作者のシステム(ベストセラー作家馬琴がなぜあんなに貧乏だったのかとか)、馬琴・北斎・鶴屋南北・山東京伝などの芸術の方向性などが語られます。 馬琴自身は、偏狂的で口うるさく、完全主義で、自身の理に拘りすぎ、女性への見方は偏りを持ち…などという性格だが、戯作者としては荒唐無稽な怪異談を書くに当たり、読者を面白がらせるか、ばかばかしくて失笑させてしまうかの紙一重の描写力を持っていた…として記述されていきます。 その紙一重の描写のはんだんが八犬伝前半では馬琴の”実”が堅苦しければ堅苦しいほど”虚”の世界は荒唐無稽に飛び回っていきますが、さすがに終盤は老化がでたか、作家としての判断力が鈍り、話の面白さも失速しているということ。 実際に「南総里見八犬伝」の終盤で八犬士たちが全員集合した後の大決戦は、 犬士たちには神のご加護で勝ってるみたいになってるし、人の因果は出来すぎだし、偶然はありすぎるし、数多の登場人物の細かい描写をただただ重ねていってるだけ…という感じがしますが、これを馬琴の「几帳面完全主義小説の面白さよりも登場人物全員に勧善懲悪のつじつまを合わせることを重要視してしまっている」性格のためだとしています。 小説内ではこのへんの馬琴の心情を 「『八犬伝』前半あたりは、正常な人が懸命に異常な物語を書こうとしているかに思われるが、後半、というにこの戦争部分は(※八犬士全員集合の後の最後の大決戦)、異常の人が懸命に正常な物語を書こうとしているかのようだ。(P322)」と書いています。 そして最後の章では「虚実冥合」となります。 馬琴の家族も死んでゆき、自身も老いて盲目となってゆき、その日の暮らしに困るほどの貧困、「八犬伝」を終えられるかどうかの焦り、そして息子の嫁のお路に口述筆記させるまでの二人の心情、苦悩、それらを乗り越え終結した「八犬伝」。小説として、実生活として、馬琴の世界がお路との共作により昇華してゆく様相は、小説としても人生としても実にすばらしい。この終盤の記述はまさに山田風太郎の真骨頂。 *** …うちの子供の友達で、里見八犬伝好きという子がいたので、山田風太郎でもこれなら子供でも大丈夫かと勧めてみたが(馬琴の挿絵を北斎が描いたことがあると知っていた!素晴らしい小学生!)読めただろうか(笑)
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二十八年かけて綴られた日本古典文学東の伝奇名作「南総里見八犬伝」、それを綴った後期読本の代表作家・曲亭馬琴。虚の世界では八犬士達の数奇な運命と冒険譚が描かれ、実の世界では馬琴とその奇妙な友・葛飾北斎との対話が描かれる。 あらすじを書いてて気付いたのですがこれ私の好きな二つの視点...
二十八年かけて綴られた日本古典文学東の伝奇名作「南総里見八犬伝」、それを綴った後期読本の代表作家・曲亭馬琴。虚の世界では八犬士達の数奇な運命と冒険譚が描かれ、実の世界では馬琴とその奇妙な友・葛飾北斎との対話が描かれる。 あらすじを書いてて気付いたのですがこれ私の好きな二つの視点で進む話なんですね。春樹の世界の終わり~とか海辺のカフカとか1Q84とかみたいなやつ。たまたま私が八犬伝好きで八犬伝ものを今手当たり次第読んでるから八犬伝とそれを書いた馬琴さまの話、という風に取れますが、八犬伝について良く知らないとか初めてと言う人にとっては二つの視点でそれぞれ進む物語みたいな風に思うかも。 上巻だけではまだ何とも言えませんが、馬琴さまのパートがとても好き。私は八犬伝好きでも馬琴さまについてはほとんど何も知らないので、私にとっては馬琴さま入門の書という感じです。彼自身も武士の家であるけれど不遇な運命に翻弄され、辛い時代を耐え忍んできてやっと読本作者という道を見つけ、その職に頑固なまでのプライドをもって読本を書き続けているという……という姿勢を見ると、馬琴さまももう一人の犬士なのかなあなんて思ったりしてちょいホロリと来ました。 八犬伝パートの方も原典に結構忠実ながら赤岩一角と角太郎が既に番作・信乃親子と会っていたとか、そういうオリジナルな流れもあって楽しめる。というかどんなオリジナリティがあるかが肝ですよね。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
読了しました。ほぼ10年前に買った本です。 買った時には読んで直ぐ途中で挫折したのですが、すっと気になっていて 最近書棚からひっぱり出してきて読み終わりました。 感想は、 面白い! です。 何故買った時に読みきらなかったのだろうと後悔するくらい面白かった です。 山田風太郎さんの本は初めてだったのですが、二重構造・対比の世界が とても良いです。 曲亭馬琴の性格の陰と葛飾北斎の性格の陽、虚の世界(勧善懲悪である)の陽と江戸時代・実の世界の陰、等々。 下巻はどのようになるのでしょう?陰と陽が逆転するので・しょうか。 更に楽しみです。
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なじ■「虚」と「実」の世界が交わる山田風太郎流八犬伝。 元の話も面白いですが、このお話がもうむちゃくちゃ面白くて上巻終わったらさァさっさと下巻を見せろ!!という勢いで読みました。山田風太郎の文章が本当に大好きだ…
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子供心を江戸時代に引きずり込んだ思い出の一冊。 やっぱ面白い。 そしてやっぱり宮田雅之さんの切り絵が美しい!! 八犬伝の物語の「虚」の世界と 作者の馬琴と北斎の回りを描いた「実」の世界。 二つの世界の対比が物語りをものすごく深いものにしていると思います。 『あと千...
子供心を江戸時代に引きずり込んだ思い出の一冊。 やっぱ面白い。 そしてやっぱり宮田雅之さんの切り絵が美しい!! 八犬伝の物語の「虚」の世界と 作者の馬琴と北斎の回りを描いた「実」の世界。 二つの世界の対比が物語りをものすごく深いものにしていると思います。 『あと千回の晩飯』みたいなユーモアもすきだけど、やっぱ山田風太郎の筆が冴え渡るのはケレンミあふれる活劇なんだなぁ。 うーん、すごい。
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滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」は有名であるが、なにしろ分量が多くて、原本を読むわけにはいかない。 で、いろいろな人が、その人なりの「八犬伝」を書いているわけだが、この本は異色である。上下二巻。 「虚の世界(八犬伝の物語の世界)」と「実の世界(滝沢馬琴が物語を書いている世界)」が交...
滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」は有名であるが、なにしろ分量が多くて、原本を読むわけにはいかない。 で、いろいろな人が、その人なりの「八犬伝」を書いているわけだが、この本は異色である。上下二巻。 「虚の世界(八犬伝の物語の世界)」と「実の世界(滝沢馬琴が物語を書いている世界)」が交錯して描かれる。 「虚の世界」は、単なるあらすじにとどまらず、しっかり面白いし、「実の世界」には、葛飾北斎が馬琴の友人として登場し、馬琴の実像を浮き彫りにする。 「実の世界」のラスト、視力を失った馬琴が、「八犬伝」の善と悪の帳尻を合わせるために、漢字を書けない、息子の未亡人(嫁です)に口述筆記で物語を完結させようという執念には、鬼気迫るものがある。 ラストの一文が胸を打つ。 「南総里見八犬伝」 世界伝奇小説の烽火、アレキサンドル・デュマの「三銃士」に先立つこと三年。
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