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もうひとつの朝
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商品レビュー
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1件のお客様レビュー
この本が刊行されたことをこころから喜びたい。 福間恵子さんの書く「文庫版解説 佐藤泰志と福間健二」だけでも、これは人生を賭けて見つけなければならなかった文章だとおもった。これは、読まなければならない。 「犬」、「遠き避暑地」「光の樹」 「犬」 外では絶えず犬の鳴く声がきこえる...
この本が刊行されたことをこころから喜びたい。 福間恵子さんの書く「文庫版解説 佐藤泰志と福間健二」だけでも、これは人生を賭けて見つけなければならなかった文章だとおもった。これは、読まなければならない。 「犬」、「遠き避暑地」「光の樹」 「犬」 外では絶えず犬の鳴く声がきこえる。執拗に。行き詰まった土地のなかで、家の外で犬の声は必ず聞こえるだろう。僕も前橋の実家で夕方ごろになるとわけもなく凶暴に鳴き始める犬の鳴き声をきいていた。あの頃は小学生だったからよかった。大人になっても同じように聞いていたら僕も、この話の弟の死のようなきっかけで、この主人公みたいに犬を殺しに外へ出ていたかもしれない。 「遠き避暑地」 解説でもあったが、70年代の頃の「きみの鳥はうたえる」というのは、男2人女1人の構図からもよく見えてくる。発表同時期に中上の「十九歳の地図」か......。2024年現在につながっているのは「遠き避暑地」のようにおもえる。祭りのはじまった頃に故郷に帰ってきて、そこで旧友と過ごす。街では祭りがおこなわれている。こんな魅力的な舞台設定はないとおもう。佐藤泰志の文章のひかりは夜の、消されたらすぐに消される光なのだ。かげの暗さは夜の闇みたく恒常的にある。 「光の樹」 いちばん好きだった。ペニスに窓の外からの円形の光を当てる場面がとても印象的。その後啓一のそれを握るかかわりというのが、きたなくて汗のにおいがしてたまらなくなる。そして民子は2人の間であやうく存在する。啓一を主人公に据える小説はみてきたが、やっぱりこの僕の視点というのが、佐藤泰志の特異点的なところだとおもう。僕という像を反射するのは時代の容赦なきながれのその流れてゆく軌跡なのだとおもう。
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