商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 白水社 |
発売年月日 | 2023/12/27 |
JAN | 9784560094624 |
- 書籍
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楽園
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楽園
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商品レビュー
3.3
5件のお客様レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「まずは少年。名はユスフ。」 この1行目から物語への期待が高まる。 ストーリーは簡単に言えばユスフの成長物語だけど、著者が植民地支配や迫害の跡に目が向けられる前のアフリカを描きたかったと言うように、複雑な要素を含むアフリカを知れる歴史認識本だと感じた。 「楽園」はただアズィズおじさんの庭の意味だけではなく、作中に複数の人が自分の描く「楽園」について語る。 ラストのユスフの選択には驚かされたが、庭師のムゼー・ハムダニの自由、カラシンガの信仰などの話の他、父と母がもういないと知ったことも大きかったのだと思う。 ユスフは隷属状態に徐々に疑問を抱くようになっていたし、気付かぬうちにどん底に落ちている糞に群がる犬の姿を見た瞬間に何かがパチンと弾けたということだろう。 だけど、ユスフの選択もまた隷属状態という意味では変わりはなく、「楽園」なんて存在するように思えない見えない未来を自分で手で人生を切り開くことがいかに困難か。 ハリルが受けるであろう衝撃、アズィズおじさんの落胆、ユスフの絶望を予想して悲しく胸が痛くなる結末だった。 奥行きが深くサクサクは読めない文章だけど、読み終えた後の満足度も大きい。
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著者はザンジバル(現在のタンザニア)出身。2021年ノーベル文学賞受賞作家である。 長編はこれまでに10作発表しており、本作は4作目にあたる。 2021年当時は、邦訳はなかったのだが、2024年1月刊行の本作を皮切りに「グルナ・コレクション」として何作が出版される予定だそうである...
著者はザンジバル(現在のタンザニア)出身。2021年ノーベル文学賞受賞作家である。 長編はこれまでに10作発表しており、本作は4作目にあたる。 2021年当時は、邦訳はなかったのだが、2024年1月刊行の本作を皮切りに「グルナ・コレクション」として何作が出版される予定だそうである。 本作は著者の出身地、ザンジバルを舞台とする。第一次世界大戦前、東アフリカのこの地は、ドイツ領であった。独英間の戦争が迫っている時代で、イギリスの影が忍び寄っている。タンガニーカ湖の西側はベルギーに支配され、キリマンジャロ周辺にはマサイ人が済み、隊商の中継地となる町には、アラブ人・スワヒリ人の隊商、またヨーロッパ人探検家が訪れる。隊商の資本を提供していたのはインド人であり、つまりはこの地にはさまざまな背景を持つ多くの勢力がひしめいていた、ということになる。 主人公ユスフは12歳の少年である。家は貧しく、暮らし向きは厳しい。 ユスフは時々訪ねてきては小遣いをくれる「叔父さん」にどことなく惹かれている。 だが、ある日突然、父親に「叔父さん」と一緒に旅に出るように言われる。実際のところ、「叔父さん」は親戚ではなく、父親が金を借りた相手であり、ユスフはある意味、借金のカタとされたのだった。 ユスフは「叔父さん」に言われるがままに、彼の使用人として働き、やがて大商人である「叔父さん」に付いて、ザンジバル各地を旅することになる。その途上で出会う人々や出来事がユスフを成長させていく。そういう意味では一種の少年の旅物語・成長物語である。 ただその背景には、時代の転換期である複雑なアフリカ世界がある。作品自体は英語で書かれている(著者は19歳でイギリスに渡り、学問を修めている)が、イスラムやアラブの伝承も織り交ぜられ、最も色濃いのは、コーランの第12章「ユースフ」の物語である。預言者で美しい容姿を持つユースフが、エジプト王の侍従長に売られる。その後、侍従長の妻に誘惑されるなどの困難があるが、最終的にはユースフは苦境を脱する。大枠ではユスフの経験に重なる部分が多いが、さて、ユースフならぬユスフには幸福が訪れるのかどうか。 一方、ユスフらの旅のエピソードには、スワヒリ語で書かれた旅行記からの引用もある。 少年の冒険物語であると同時に、激動の東アフリカ社会を描いており、また、アラブやスワヒリ、インド、ドイツなど、さまざまな文化が交錯する作品ともなっている。 「楽園(Paradise)」とは、コーランではジャンナと呼ばれ「楽園/天国」を指し、「庭園」も意味するという。本作にも印象的な庭園が登場する。 伝説や伝承の英雄物語のように、夢のように美しいパラダイスで、絵に描いたようなハッピーエンドが得られればよいのだが、どうやらユスフの行く末はそれほど薔薇色ではなさそうである。 だがその不穏さが物語の豊かさの源のようでもあり、また(おそらくはかなりの困難を伴ったであろう)著者自身の来し方をどことなく匂わせるようでもある。
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読了後、あえて読んでいる間は開かなかった地図を開いた。著者の出身地で舞台でもあるザンジバル(現タンザニア)はアフリカ大陸の東海岸。一方、近時活躍著しく「アフリカ出身の作家」と言われると個人的にすぐに思い浮かぶチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの出身地ナイジェリアはスーダンやコンゴ...
読了後、あえて読んでいる間は開かなかった地図を開いた。著者の出身地で舞台でもあるザンジバル(現タンザニア)はアフリカ大陸の東海岸。一方、近時活躍著しく「アフリカ出身の作家」と言われると個人的にすぐに思い浮かぶチママンダ・ンゴズィ・アディーチェの出身地ナイジェリアはスーダンやコンゴなどを挟んで遠く西海岸。その物理的な距離に、改めて「アフリカ」とまとめることの無意味さと自身の解像度の低さを突きつけられた。 読んでいる間も、常に顕になるのが己の無知である。イスラム教徒が多いのか?アラブ系住民の立ち位置とは?地方の統治者としてスルタンが頻出するが旧イスラム帝国圏なのか?一方でインド系移民の存在感も強いが? 基本的な歴史や文化をあまりわかっていないので、地域の文脈だったり、例えば登場人物がマイノリティなのかどうかもよく理解できない。しかし思えば、子供の頃は、ヨーロッパやアメリカ文学を読むときにも同じような戸惑いを感じ、出てくる一つ一つの行動や慣習の「文脈」を理解するまである程度時間はかかったことを覚えている。要は多く触れているかどうかがかなり重要だと思うので、これからも積極的に読んでいきたい。
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