商品詳細
| 内容紹介 | |
|---|---|
| 販売会社/発売会社 | 早川書房 |
| 発売年月日 | 2023/11/21 |
| JAN | 9784152102867 |
- 書籍
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ハーレム・シャッフル
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ハーレム・シャッフル
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商品レビュー
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「ニッケルボーイズ」に続く藤井光さん翻訳のコルソン・ホワイトヘッドの小説はクライムノベルだった。殆どのクライムノベルがそうであるように、主人公は巻き込まれたり、カモられたり、あるいは自ら進んで関わる犯罪、事件を解決しようと奔走するけれど、そこで本当に解決しよう...
「ニッケルボーイズ」に続く藤井光さん翻訳のコルソン・ホワイトヘッドの小説はクライムノベルだった。殆どのクライムノベルがそうであるように、主人公は巻き込まれたり、カモられたり、あるいは自ら進んで関わる犯罪、事件を解決しようと奔走するけれど、そこで本当に解決しようとしているのは自らの生活、人生で、それは”事件”が解決して物語ることを終えても解決することがない。これも解決しない物語。同時にニューヨーク、ハーレムの変わる部分も変わらない部分も詳細に描いた街の話でもあって、ああ、やっぱり、これも読みたい小説だった。 たしかにそうでもあったのだけど、この本を読み始める前に「福音と世界」に掲載されていた山下壮起さんの論考「Fuck The Policeーフッドとハッスルの霊性」を読んでいて、それからすぐにバッグから取り出して読み始めたこの物語は”フッド”での”ハッスル”の物語だということを強く意識して読んでいた。「黒人たちは正規の販売経路への参入を妨害され」るため「フッドではそこに生きる人びとによって資本主義社会とは異なる経済活動-ーハッスルーが行われている」。家具店を経営しながら、細々と故買も行う主人公が巻き込まれる強盗事件も、”上流社会”への参入を餌にカモられたことへの復讐にも、白人も含めた町の権力構造を垣間見るときにも、その根底には”ハッスル”をする意味や理由、「奴隷制とそれを正当化する法的規範」を引きずった社会や「人種差別的な枠組みを歯車とする資本主義」があるのだと思えた。 そんな風に読んでいくと”解決しない物語”はまた少し別の意味を持ち始める。”黒人文学”と言われるような作品は、様々な物語を使って自分たちの生活、苦境や怒り悲しみを書き続けている。その根底には”解決”出来ていない社会構造があって、解決できないが故に書き続けられている。改めてそう思った。それらが書き続けられるということは、未だ解決していないということでもあるのだけど、そこには書かれる意味も読む意味も、効果や作用も絶対にある。そう思いたい。そう思う。それに、解決していない根深い問題というのは世界にも身の回りにも数多く残っているから、この小説やその他の本を読んで考えた後の目でそれらを見逃さずに、目をそらさずにいたいと強く思った。 この本を読み終わった日は11月の後半にしてはとても暖かかったから、シェルの下には長袖のT-shirtを着ていて、その胸には「SILENCE KILLS YOU」と書かれていた。ジップを開けた間から見えるその文字を見下ろしながら、なるほど、黒人作家たちは社会、世界に”殺されない”ために書き続けているのかと考えていた。それと同時にここでいう”YOU”とは”わたし”のことでもあるのだけど、”わたし”が沈黙することで”殺される””あなた”がいるのだということにも気がついてハッとした。今見えている状況にも目をそらさずに、容認、”沈黙”せずにいたいと、また強く思う。
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大好きなジャンル。 ただ、「地下鉄道」はスムーズに読めた記憶があるけど、コレは、文体が入って来辛かった。 気のせいかなぁ…。 あと、アラジンのジーニーの例えが時代背景的にちょっと気になりました。
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『地下鉄道』、『ニッケル・ボーイズ』と、これまで翻訳された作品はどれもオモシロかったコルソン氏なら間違いないっしょってことで読んだ。過去二作とかなり味づけが違っておりハードボイルドなクライムサスペンスでオモシロかった。訳者あとがきを読む限り既訳二作品はアフリカ系アメリカンの歴史とその苦境に相当フォーカスしており彼のキャリアの中で特別なものだと思う。なお本作でもプロットだけ追えば何てことないクライムサスペンスなのだが、アフリカ系アメリカンの苦境に思いを馳せつつNYの情景描写の巧みさに心を奪われた。 犯罪に手を染める父を持つ家具屋の店主が主人公。表向きは家族持ちの変哲もない父親だが裏の顔は盗品の横流しを生業とするハスラー。従兄弟が巻き起こすトラブルに巻き込まれたり、父親譲りの復讐心から悪事に手を染めてしまったりとNYのハーレムを舞台にして駆け引きが繰り広げられる。基本トラブル巻き込まれ型の話なので読者も入り込みやすくなっている。家具屋かつ建物好きという設定もあり、とにかく街の描写が最高だった。歴史を含めどういう建物か相当細かく描いているので読んでいるあいだ1960年代のNYを歩いているような気持ちになる。また終盤に不動産王との戦いに入っていく中ではNYの高層化した街の圧迫感と心情描写を重ね合わせていく点がかっこよかった。 物語が進むにつれて裏の顔が深くなっていく。親ゆずりのプライドゆえの復讐から始まり最後は銃撃に巻き込まれる大立ち回りに至る。従兄弟の破天荒な振る舞いの影響が大いにあるのだが、本人も「やれやれ」と言いながら、そのトラブルを乗りこなすことを楽しんでいるように見える。2 faceから見た世界の在り方として以下のラインが沁みた。 *真人間対悪党。真人間はよりよいものをつかもうとする。ーーーよりよいものはあるかもしれないし、ないかもしれないーーーその一方で、悪党たちは、現在の仕組みをどう操作しようかと策謀をめぐらせる。こうなりうるという世界と、こうであるという世界。だが、それは白黒をはっきりさせすぎているいるかもしれない。真人間でもある悪党は山ほどいるのだし、法をねじ曲げる真人間も山ほどいる。* アフリカ系アメリカンと白人の権力勾配についてクライムな展開の中でもかなり意識的に描かれている。白人警官にアフリカ系アメリカンの子どもが殺されてしまったことで起こる暴動が物語中盤の軸として存在し、登場人物たちがさまざまな形で巻き込まれていく点が象徴的だった。当時は人種差別が蔓延っていた時代であり、その中でサヴァイヴするためには相当なコストを支払う必要があったことがよくわかる。またこういった差別に対して怒りを抱いた結果の暴動や略奪などが無秩序、暴力の象徴として語られるが、イスタブリッシュメント側の暴力的な再開発はどうなんだ?という問いかけは鋭い。つまり破壊という意味では同じだろうと。この論点は今の世界各国の都市にも言えることであり、金持ちがさらに金を産むためにスクラップ&ビルドするケースが多すぎる現状に対する著者の苦言に思えた。日本は耐震性という課題があるので致し方ないにせよ近年の東京なんて最たるものだ。そんな都市論にまでリーチしてしまうほど物語の本筋ではない部分でも細かく描き込んでいく。これが著者の書き手としての腕力であり並の作家と異なるところだ。次の翻訳作品も楽しみ。
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