商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 河出書房新社 |
発売年月日 | 2022/05/27 |
JAN | 9784309030395 |
- 書籍
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さらば、ベイルート
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日本の大学を辞し、パリで日本映画の解説などをして過ごしていた「私」は、レバノン出身の映画監督ジョスリーン・サアブと親しくなる。日本赤軍の重信房子とその娘メイを題材にした新作を撮りたいというジョスリーンのため、日本とのパイプ役を務める「私」。だがジョスリーンの体は癌に侵され、死が間...
日本の大学を辞し、パリで日本映画の解説などをして過ごしていた「私」は、レバノン出身の映画監督ジョスリーン・サアブと親しくなる。日本赤軍の重信房子とその娘メイを題材にした新作を撮りたいというジョスリーンのため、日本とのパイプ役を務める「私」。だがジョスリーンの体は癌に侵され、死が間近に迫っていた。ある女性の人生を賭したドキュメンタリー映画が作られる工程を描いたノンフィクション小説。 四方田犬彦の新作ということで読みはじめたが、サアブ監督だけでなく重信房子にがっつりフォーカスした内容だとは知らずに驚いた。私は赤軍については指名手配のポスターくらいしかまともな記憶がない世代で、四方田と重信房子の短歌を通じた交流も本書を読むまで知らなかった。赤軍の一部がパレスチナ解放闘争に関わっていたことも、重信メイさんのことも。 無知を恥じるべきなのだと思う。日本には国全体で考えないようにしている重大事が多くあり、国内に留まっていると〈考えないようにしていること〉自体の異様さがなかなか見えてこない。勿論、あらゆる国に内と外の問題意識の差は生じているのであって、ジョスリーンもジョスリーンの視点で終始世界を見つめ続けた。その強さと寂しさが、エピローグに置かれた「私」とメイのやりとりから透けて見えてくる。 ドキュメンタリー映画の企画が構想から具体化していく過程を四方田の筆で読むことができたのが私には興味深かった。この小説も含め、ドキュメンタリーやノンフィクションは〈現実をありのまま映しとったもの〉なんかでは有り得ず、監督とは意図的に一つの視点を持ち込んで現実を切り取り、編集する覚悟を持つ人のことをそう呼ぶのだ。 病に侵されながらも人生を諦めず、映画の完成を目指して行動し続けたジョスリーンに対する四方田の視線は痛ましく、文章は友情にあふれていて美しい。わかりあえたこと、わかりあえないことを記していく筆は慈愛に満ちている。ジョスリーンをモデルにした幻想小説もぜひ読みたいけれど、本人不在になってしまった今、未出版の手記からアイデアを採るのは剽窃と区別がつかなくなってしまうのも確かだろう。 父を愛しながら父の生きる世界とは決別し、母に愛されなかったことに生涯苦しみながら、記憶をなくした母を赦したジョスリーン。「アラブ語は上手じゃなかった」ジョスリーンは流浪する魂を最期の映像のなかに平らげたのだろうか。
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「レバノンの名家に生まれ、パリで客死したある女性映画作家の生涯 脅威と感動のノンフィクション」と帯にある。中東の歴史や文化にまったく明るくなくて、主人公のジョスリーンという映画作家も、著者の四方田さんのことも存じ上げなかったのだけど、多和田葉子さんと斎藤真理子さんが帯に言葉を寄せ...
「レバノンの名家に生まれ、パリで客死したある女性映画作家の生涯 脅威と感動のノンフィクション」と帯にある。中東の歴史や文化にまったく明るくなくて、主人公のジョスリーンという映画作家も、著者の四方田さんのことも存じ上げなかったのだけど、多和田葉子さんと斎藤真理子さんが帯に言葉を寄せているのが気になって、これはおもしろいはずだと本屋で手に取った。くまざわ書店の書評コーナー、ありがとう。 裏表紙の帯には「元日本赤軍幹部・重信房子と娘メイの、母娘の絆の物語」とあった。学生の時に連合赤軍のあさま山荘事件を扱った映画や中東にいる日本赤軍の映像や、重信房子とその子供たちのエピソードを聞いた記憶があって、なんとなくその風景が浮かんだ。漠然とした印象なのだけど、あさま山荘事件に見た、革命戦士→男性性の協調→女性性の否定、という論理に違和感があった。日本赤軍は連合赤軍とは別団体なのは承知の上で、「母娘の絆の物語」という表現に引っかかった。凛とした表情で映る重信にもプライベートがあるはずで、でもそこに思いをはせたことはなかった。講義室でみた映像に色がさした気がした。 母と娘の関係は、あたたかいものもあれば、冷たいものもある。愛されているとわかっていても傷つくことも多い。自分の価値観を娘に投影しようとしたり、自分の失敗を娘の責任にしようとしたり。ジョスリーンは母親との関係に苦しんでいた。メイは母・房子との関係を尋ねられたとき傷つけられたことがないか執拗に探られた、といった旨のことを著者に話している。自分の作った母娘のネガティブなストーリーに押し込めようとしていた、と。どんなに才能や実績がある女性でも、死ぬまで母親の影を抱え続けるのかと、苦しくなった。 語り手である著者の分析も正確、かつやさしさに満ちていて、ジョスリーンへのジェントルな姿勢がいい。あと、パリってこんなに素敵なところなのね。いいな。と、憧れを募らせてしまった。私の中のパリは1920年代にヘミングウェイやフィッツジェラルドが集って、新しい文化が花開くような、そういう美しい交流の場所だった(映画『ミッドナイト・イン・パリ』のような印象!)けど、それも映画の中だけの話じゃなくて、本当にそういう文化の場所なんだ。そしてアフリカや中東に近い。フランスって私にとってはとても異文化で、知らないことがたくさんありすぎる。
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