商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 慶應義塾大学出版会 |
発売年月日 | 2021/05/19 |
JAN | 9784766427493 |
- 書籍
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第一次世界大戦と日本の総力戦政策
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第一次世界大戦と日本の総力戦政策
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本書は、第一次世界大戦をきっかけに日本の総力戦・総動員政策がどのように導入されていったのかを具体的な政策の導入過程を通じて明らかにしたものである。目次は以下の通り。 序 章 総力戦・総動員と連合国としての日本 第一章 連合国の経済封鎖政策と日本――対敵取引禁止令 第二章 連合国...
本書は、第一次世界大戦をきっかけに日本の総力戦・総動員政策がどのように導入されていったのかを具体的な政策の導入過程を通じて明らかにしたものである。目次は以下の通り。 序 章 総力戦・総動員と連合国としての日本 第一章 連合国の経済封鎖政策と日本――対敵取引禁止令 第二章 連合国の海運統制政策と日本――戦時船舶管理令 第三章 第一次世界大戦と経済思潮――経済学者堀江帰一の言論を通して 第四章 総力戦における税政策と国民――社会政策としての戦時利得税 第五章 英米の経験と日本の総動員法制――軍需工業動員法・軍需局・国勢院 終 章 まとめと展望 昨年出版された本書はすでに多くの書評が出ており、また第7回・日本防衛学会の猪木正道賞(奨励賞)を受賞するなど一定の評価を得ている。 まず第一章では連合国による対独経済封鎖という戦略に日本が加わる過程を分析している。日本は戦争特需という最大限に享受したいという欲求があったにも関わらず、大英帝国との通商関係維持の必要から連合国による共同枠組みに参加する。そのために導入されたのが、1917年5月施行の対敵取引禁止令であった。しかし、この法律は自由貿易主義原則に反するものであり、批判が多数存在した。それゆえに日本が英米経済圏依存からの脱却を志向していく契機となったとの指摘は重要である。第二章も戦時船舶管理令を取り上げて、同様の主張がなされている。つまり、資源(鉄)の対米依存が日本の政策選択を決定づける重要な動機となったということである。またこの法令制定にあたってイニシアティブを取ったのが逓信省であり、戦時動員行政における文民参加という点が指摘されている。この点は第五章で詳述されている。 本書全体のテーマは第一次世界大戦を契機に日本の動員体制がどのように構想されていったのかという問題にあることは明らかだが、全体を通じてそこには従来言われてきたような単純なドイツモデル導入ではなく、英米の動員体制が大きな影響をもっていたことが明らかにされている。と同時に、第一次大戦中から1920年代初頭にかけては緊張を孕みながら比較的しっかりと議論されてきていた戦時動員体制の構築問題が1930年代に入って日本の経済的自立のためには中国を資源供給基地とした別個の経済圏確立が必要だという議論へと旋回していく。そうした論理的な危うさをもった思潮がどのように起ち上がってきたのかを具体的な言説分析を通じて明らかにしたのが、第三章である。そこでは、堀江帰一という当時の売れっ子エコノミストの言説を分析することで上記の日本独自の自立圏構築という流れがどのように生じてきたかが示されている。堀江が議論を主導したということではなく、時代思潮(一言で言えば、英米への不信)をよく見て取っていたということである。 第四章は戦時利得税導入と社会(福祉)政策との関連が扱われている。従来から第一次世界大戦中の経験と社会(福祉)政策との関連は指摘されてきたところであるが、ここではその財源である戦時利得税導入の議論、その具体的導入過程が明らかにされている。最後の第五章は、総動員の体制構築に関わる問題が主として扱われている。英米の総動員機関の設置過程において軍の管轄であった軍需調達や総動員業務に財界人をはじめとする文民が参入してきたことが明らかにされ、日本ではとくに英国の経験を踏まえながら、総動員機関に文民の協力の必要性を認識していった。 著者が「あとがき」で「現在(2021年4月)続いているコロナ禍がまさに非常時における自由と統制の問題を浮き彫りにしているように、統制というのは人権侵害を常にはらむものである、そうであるからこそ民主的に選ばれた政府の責任において、科学的知見に基づき、段階に応じた統制の基準を設定し、法令に基づき行われるべきものであると考える」(p.316)と述べている。第一次世界大戦を契機とした「総力戦政策」の経験から学ぶものはまだまだ多いのである。
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