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天井のない監獄 ガザの声を聴け! 集英社新書
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 集英社 |
発売年月日 | 2019/05/17 |
JAN | 9784087210767 |
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天井のない監獄 ガザの声を聴け!
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商品レビュー
3.3
4件のお客様レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
今、まさに戦闘状態に陥ってしまっているパレスチナとイスラエル。 その発端と状況を知りたいと思って、あれこれ調べている中で出会った本。戦闘が始まるよりも前の国連の支援組織(保健省)UNRWAの医師のルポだが、それだけに、その切り口でしかわからないさまざまなことが語られている。 パレスチナ人の多くが「尊厳」が欲しいと口にする、と言うことに、この紛争の大きな理由があるように思う。 難民キャンプに生まれ、難民キャンプで生きている(出ることができない)閉塞感、自分と民族への肯定を欲する言葉のように思う。パレスチナを離れる時、自宅から逃げ出す時、家のカギをかけて出て、今もカギを持っているということが、故郷への渇望を表している。 イスラエル建国について、国を取り戻すという考えの裏には、ナチスとその時代の欧米の多くの国の中にあった「ユダヤ人」への迫害があったように思う。だからと言って、アラブ人(パレスチナ人)を家と国から追い出し、迫害し返して良いというものでもあるまいが、それくらい、ユダヤ人の歴史の中で何かが捻じ曲がってしまっているようにも感じられる。ほどき方がわからない、と思ってきたが、イスラエル人自身も、よくわからないのかもしれない。
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幼い頃、沖縄旅行に連れて行ってくれた親のおかげもあり、初めて乗った飛行機に憧れパイロットになりたかった。中高生になると就職難のニュースが耳に聴こえてくるようになり安定を求めて公務員も良いなと思い始め、大学は公務員試験にも有利になりそうな法学を専攻した。大人になる事に夢や希望や不安...
幼い頃、沖縄旅行に連れて行ってくれた親のおかげもあり、初めて乗った飛行機に憧れパイロットになりたかった。中高生になると就職難のニュースが耳に聴こえてくるようになり安定を求めて公務員も良いなと思い始め、大学は公務員試験にも有利になりそうな法学を専攻した。大人になる事に夢や希望や不安を抱えながらも、自分は明日の死に怯える様な境遇には一度も陥ったことはない。世界には明日の生死も予測できず、未来に夢を持てない人々が沢山いる。 本書はパレスチナ難民を救うために国連が設立したUNRWA(ウンルワ)の保健局長を務めた医師が見たガザおよびパレスチナ難民の実情を記録したものだ。数値的に見れば世界には約550万のパレスチナ難民がおり、そのうち140万人はガザ地区に居住している。 パレスチナ問題は第二次対戦後にイスラエルが国家を宣言し、第一次から続く中東戦争、そして1967年の第三次中東戦争によりイスラエルがパレスチナを占領したことで激化の一途を辿る。1993年のオスロ合意により当時のイスラエル首相ラビンとPLOのアラファト議長が歴史的な和解を成立させ、一旦は和解の方向に向かうものの、その後のイスラエルは右派が台頭し、パレスチナ側もハマスが実質的なクーデター政権を成立させたことで再び対立を生み出している。その後も散発的なテロ行為に対して、イスラエルはミサイルや空爆で報復するなど、和解への道は全く見えてこない。 その様な歴史の中で筆者が所属するUNRWAは当初設立3年の期限付きで始まりながら、緊張を続けるパレスチナ問題同様、数十回の延長を繰り返しつつ存在している。これはそのまま国連の支援なしでは、パレスチナの存在自体が危険にさらされている事を意味している。 筆者は国連職員の立場から見てきたパレスチナの現状を医療面からの考察、現地の人々との交流から見えてきた「将来を描けない若者たち」を中心に描き出していく。若者たちは前述した私の若かりし頃の(今も変わらず)ような夢を持てる状況には無い。若者の失業率が60%を超えるガザ。周囲を高い壁、検問所に囲まれ容易に外へ出ることも許されない人々。既に難民認定された世代から数えて3世代目にあたる若者たちは、自分たちの祖国を知らない。パレスチナ自治区はあくまで命を繋ぐための仮の住まいである。外に出る自由もなくイスラエルからの度々の砲撃、厳しい監視体制下に置かれる彼らは将来に夢を持てない。そこにあるのはただ「人としての尊厳」を求める姿のみである。 医師である筆者はこの場所に住む人々の糖尿病の多さは、貧しくて野菜や肉が食べられず、糖質の高いパンでお腹を満たすしか無いこと、日本では既に克服された結核による死亡、そして何よりメンタルヘルスの重要性に触れる。日本では当たり前の様に皇居の周りをランニングして肥満防止に努めたり、ワクチン接種で免疫をつけたり、近くの心療内科で睡眠薬をもらうような当たり前の世界はそこには存在しない。あるのは未来への絶望や今を生きる事に必死になる姿のみだ。 筆者は公衆衛生の専門家でありながら、そうした当たり前のことが出来ない社会の背景に原因を見出し、若者の社会進出を目指すプロジェクトなどにも尽力する。若者たちに未来を考えられる社会を作らなければ、この状況から抜け出すのは難しい。そうでなくともイスラエルの厳しい監視下でろくに電気も使えず、移動の自由さえ剥奪された人々。 本書後半で取り上げているグレートマーチは国境フェンス近くを行進するデモで毎週金曜に実施される。当然イスラエルの治安部隊はデモ鎮圧のために武力をもって対峙するから、死者や負傷者が絶えない。筆者は医療提供の立場から、病院の収容能力を遥かに超える人々が送られてきては、回復後にはまたでも参加する人々を目の当たりにする。医療逼迫の実情を見ればとてもやるべき行為では無いし、何より参加者も近隣住民も死の危険が迫る。それでも無くならないグレートマーチは、職にも就けずどこにも出れない人々の自暴自棄的な行為であると共に、そうでもして国際社会が振り向かなければ変わらない、変えられない現状がある事をフェンスの外で安全に生きる我々に突きつけてくる。 トランプ時代に喰らった補助金打ち切りも(三分の一の寄付を失う)、彼らの努力により乗り越えてきた。まだまだ国際社会ができることは沢山ある。我々一人一人ができることも沢山ある。先ずはパレスチナ難民、ガザの現状を知り、彼らの成り立ちや歴史背景を見て、更に何が必要とされているかについて考えるよう訴えている。 まさにタイトル通り「天井の無い監獄」がそこにはある。
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