商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 国書刊行会 |
発売年月日 | 2018/03/30 |
JAN | 9784336048431 |
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最後に鴉がやってくる
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最後に鴉がやってくる
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第二次世界大戦前後のイタリアがメインの舞台の短編集 主人公はくるくると目まぐるしく変わる 若者、老人、少女、パルチザン、ドイツ兵、スパイ… 誰もが悲しいほど人間なのだが たまに何かの精霊のような雰囲気の少年が登場する 表題作にも出てくる どれも悲しく美しいおとぎ話のよう
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『羊飼いは野生の木蔦でおおわれた道伝いに泉のほうへ歩いていき、喉が渇いているわけでもないのに水を飲んた。蛍が現れたかと思うと、ふたたびすっと消えたのが見えた。ずいぶん密集した群れのように見えたけれど、空中で腕をふりまわしても一匹も触れずじまいだった』―『羊飼いとの昼食』 イタロ...
『羊飼いは野生の木蔦でおおわれた道伝いに泉のほうへ歩いていき、喉が渇いているわけでもないのに水を飲んた。蛍が現れたかと思うと、ふたたびすっと消えたのが見えた。ずいぶん密集した群れのように見えたけれど、空中で腕をふりまわしても一匹も触れずじまいだった』―『羊飼いとの昼食』 イタロ・カルヴィーノの新しい翻訳に触れる。「見えない都市」のような空想小説風でもなく「冬の夜ひとりの旅人が」のように複雑な仕掛けのある小説でもない。しかしそこにはやはりイタロ・カルヴィーノ独特の何かがある。むしろ、そのエッセンスがより濃いと感じる程に。 巻末の解説や翻訳者によるあとがきによれば、この一冊はカルヴィーノの初の短篇集であり実質的なデビュー作である。そこに大袈裟に言えばこの作家の魅力は既に全てあると言ってもいいようにも思う。それは「見えない都市」にも「冬の夜ひとりの旅人が」にも感じた「地」と「図」の関係性のようなもの。特にその構図が一連のパルチザンを巡る短篇の中に見い出せる。 地は図を必要とし、図も地がなければ存在は希薄となる。陰陽程の対等な関係ではないが、相対的な依存関係に両者はある。敵対する敵と味方。しかし敵とは誰のことなのか、その曖昧さがシニカルにだがコミカルに描かれる。それが善と悪という抽象的観念と多重露出的に投影される。その善悪の捉え方は、あるいは作家自身のパルチザン活動に由来するものか、もしくは科学者一家の中で育った故に育まれた冷静さに由来するものなのか。その判断は研究者に委ねるとして、パルチザン活動がカルヴィーノに書きたいという気持ちを強くさせたのだろうことは、これらの結論めいたものが一切出てこない一連の短篇を読むとひしひしと(恐らくそれを怒りと表現してもいいのかとも思う)感じることが出来る。 それが短篇集の中盤に至ると戦後の混乱の中で展開する価値観のすり変わりを中心とした話に変化し、世の中をやや斜に構えて微妙に俯瞰した視点に書き手の立ち位置は移行する。ここには既に馴染みのあるカルヴィーノがいる。 『あの部屋にある機械が、過去も未来も把握していて、いつか機械だけで会社を動かせるようになることさえ知らなかったのだから。そうなったら、オフィスからは、ちょうど夜の時間みたいに誰もいなくなり、閑散としてしまうだろう』―『経理課の夜』 そしてこの一文が「柔かい月」のような空想科学小説風の作品へと繋がるのは明らかだ。新しいものは古いものの延長にしか存在しない、そのことをカルヴィーノはよく解っていたのだと思う。「パロマー」の望遠鏡で見透すように。遠い射程は、自分が遠いと思っているだけのこと。その未来は案外近いところに落ちている。
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『「地主の目」には、悪態をつきながら小作人をこき使うとはいえ、小作人から彼らの一員とみなされている地主の父と、文句は言わないが余所者として彼らから軽蔑されている息子が対照的に描かれている。」』太宰治を思い出す。
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