柳生刑部 秘剣行 隻眼流廻国奇譚外伝

菊地秀行(著者)

• 販売会社／発売会社: 創土社
• 発売年月日: 2017/06/27
• JAN: 9784798840048

商品レビュー

2017/08/11

　刑部友矩とスタイン医師の奇妙な関係が面白い。最初の旅で親近感を抱いたのか、何かしら思うところがあったのか、敵対関係となった後も見逃すわけではないが、かといって積極的に打って出るようなこともしない。刑部ならあっという間に真っ二つにできるはずなのに。そしてスタイン医師の研究が全てというキャラクターも実に面白い。陣営を変えながら、手段は選ばず、ただただ刑部の特殊な病気を研究し続ける。これこそがマッドサイエンティストだ。

2017/07/17

野牛流で隻眼といえば柳生十兵衛！なのだが、本作の主人公は夭逝したとされている野牛刑部。
面白い設定がある。それは本来怜悧で、一種冷酷とすら言える刑部にはもうひとつの人格があって、こちらはいたって豪放磊落。
いや、人格とは少し違う。刑部は離魂病を患っていて、これがドッペルゲンガーとしてもうひとつの人格を自在に投射する事ができる、そしてこの人格が自分の内側に戻ると層倍の力が発揮される反面、一日二二度も投射すると、大変な疲労となって現れる……。
同じような二重人格の主人公というと、菊地秀行には秋せつらという名キャラクターもあるが、刑部の設定は秋せつらに比べ、弱点をも抱えている事で、より面白いものになっていると思う。
そして刑部に絡むのは、敵ともなり味方ともなるマッドサイエンティスト、スタイン博士。
敵となるのは日本の乗っ取りを企む裏衆。
春日局と徳川家光にまつわる秘事を発端とする物語は、どんどん転がっていく。
正直に言うと、ファンタジイがホームグラウンドである私にとっては、時代ものであるのに、リーダーだのグループだの、といった現代の言葉が入ってくるのは多少イラッとさせられるのだが、まあ、これも時代文学では実はよくあるレトリックだ。
ともあれ、これは菊地ワールド120%!であり、そうした瑕瑾も気にならないほど、一気に読める面白い作品だ。