滅びゆく日本へ 福田恆存の言葉

佐藤松男(編者), 福田恆存

• 販売会社／発売会社: 河出書房新社
• 発売年月日: 2016/06/23
• JAN: 9784309024776

商品レビュー

2016/10/06

　保守の論客として知られた福田恆存の語録は、振返ってみると含蓄に富む。進歩的知識人への批判、社会科学への批判などは、若かりしときには反発を感じたかもしれないが、深い思索に基づくこの人のアイロニー、ユーモアを今は少しは素直にきける気がする。日本のチェーホフを自任していたらしい。福田氏にとっては「私達日本人が敗戦によって歴史、伝統を自ら否定し、意識的にそれとの断絶を計った。過去の記憶を喪失した人間は同時に未来をも失う。」日本はこの記憶喪失者状況が70年に亘って続いていることを指しているのがこの書の題名。福田氏自身の言葉から取られたものらしい。面白い言葉の数々を引用する。同意するわけではないが、理想主義への偽善を批判する福田の言葉に苦笑いせざるを得ない箇所は多い。
「選挙権を正当に行使する能力は低下している、選挙年齢の25歳以上へ引上げた方がよい！」「夭折が悲しいのは浅はか。老衰して死んでゆくほうがずっとずっと悲しい。」「自殺は、他の生きている人間の生そのものを、全存在を裁いている」「何々性という言葉は先ず大抵の場合、使用者自身意味が解っておらず、解っていない事を無意識の裡にごまかして用いている」「教師が怒りを発し、生徒を殴ることは悪いことかもしれないが、その感情は本物である。にこやかな説得の方が虚偽である場合がありうる。本物の悪の方が教育的だということを忘れてはならない」「天皇の人間宣言によって否定したはずの神格を、象徴規定はあら編めて再確認し、しかも大日本帝国憲法下の天皇にあった人間的生活を剥奪してしまった！」「別に戦前は軍部や政府が国民を痛めつけるのではなく、国民自身が、戦争を狂熱的に支持し、痛めつけた」「原水爆は初めて出現した悪魔ではない。全ての価値を数量で割り切る悪魔の思想に囚われている。全人類の死が5人の死より悪魔的に見えるのは、自分の死が含まれるという利己心の働きである」