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エルフ皇帝の後継者(上) 創元推理文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 東京創元社 |
発売年月日 | 2016/06/30 |
JAN | 9784488571023 |
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エルフ皇帝の後継者(上)
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商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
・キャサリン・アディスン「エルフ皇帝の後継者」(創元推理文庫)は昨年度のローカス賞ファンタジー長編部門の受賞作であるといふ。正直なところ、私はこれに驚く。それほどの作品とは思へないからである。それは、一言で言へば、できすぎてゐるからである。かういふ物語、それは確かに良い。破綻してゐたり混乱してゐたりしたら大変である。さうではない。逆である。よくできてゐる。いや、できすぎてゐる。おもしろいことはおもしろい。私も一気読みに近い読み方であつた。しかしその間、これは何だとも思つてゐた。できすぎだよなといふわけである。石堂藍の「解説」には、「本作の場合、『降ってわいたような王』という役目に対して、主人公が前向きである点が何よりも好感度が高い。」(下346頁)とある。前向きと言へば確かに前向きであらう。しかし、あれではできすぎではないか。「降ってわいたような王」である。準備をしてゐたわけでもなく、ねらつてゐたわけでもない。疎まれた父王と3人の兄が飛行船墜落で急死してしまつた、その結果として主人公マヤに王位が転がり込んだのである。棚ぼた、寝耳に水、降つてわいた即位、これ以外の何物でもない。王になる気などなかつたし、そのための帝王学とも無縁であつた。ただ、保護者は、マヤを痛めつけはしたが、その一方で、きちんと宮廷作法だけは身につけさせてくれた。この面でのマヤの対応はできすぎではなく、その教育の成果が出た順当なところとは言へよう。しかし、これ以外の重要な点、所謂権謀術策渦巻くエルフ宮廷で生き残る術は誰にも教へられていないはずである。保護者もまた追ひやられた人であつたから、宮廷に帰ることを考へはしても、この子供が王位に就くなどとは考へるはずもなかつた。だから、宮廷での政治的駆け引きなどは教へてゐないはずである。それにもかかはらずのマヤの思考、態度に、私はこの物語を読みながら、何だこの18歳は、できすぎだと思ひ続けてゐた。本書はそんな物語であつた。 ・そんなエピソードの最初は急遽宮廷に帰る飛行船である。ここでの態度は既に王であつた。乗組員がさう扱ふのは当然として、マヤもまたさう過ごした。「ここにきて、嫌でも作法通り優雅にふるまわなくてはならない局面にぶつかった」(上29頁)にもかかはらず、といふより、それゆえにこそ、保護者に「宮廷流の作法を強制」(同前)され、「母のチェネロが丁寧にしつけてくれていたので」(同前)王としてふるまふことができたのである。これなどたいしたことはない。あくまでもふるまふ、その形だけである。ところが宮廷に到着後、かつての保護者がここでも保護者然としようとするのを、「そうはいかないよ。マヤは思った。在位中、ほかになにひとつできなかったとしても、絶対おまえに支配なんかされるものか。」(上38頁)と、かつての弱者の位置を完全に覆す。へたをすればかつてのつらい体験がトラウマとして残つてゐさうなのに、そんな気配は感じさせない。既に自立した王の趣である。これは初めて宰相と会ふ時にも感じる。宰相が亡き王の葬儀の説明をしようとする「矢先、マヤがつとめて穏やかな口調で言ってやった。『余の戴冠式の件を話し合いたい』」(上43頁)機先 制された宰相「チャバルの口はしばらく半開きになってた。」(同前)およそ田舎出の18歳の新王の言葉とも思へない。駆け引きも見事である。以下、事ほど左様、マヤは戴冠以前から駆け引きにも秀でた王としてある。物語自体も、予定調和と言ふか、決して悪い方向に進まない。できすぎである。たまにはこんなできすぎ物語も良いかもしれないとは思ふが、さて……。
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