

商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 白水社 |
発売年月日 | 2016/05/10 |
JAN | 9784560092392 |
- 書籍
- 書籍
人生の旅人たち
商品が入荷した店舗:店
店頭で購入可能な商品の入荷情報となります
ご来店の際には売り切れの場合もございます
オンラインストア上の価格と店頭価格は異なります
お電話やお問い合わせフォームでの在庫確認、お客様宅への発送やお取り置き・お取り寄せは行っておりません
人生の旅人たち
¥13,200
在庫あり
商品レビュー
3
1件のお客様レビュー
まさに「旅人」と化したかのような読書体験であった。 まあそれは、絶景をのぞんだり幾多もの素晴らしい出逢いがあって…というよりはむしろ、ちょうどスペインの聖ヤコブへと続くサンチアゴ・デ・コンポステッラ巡礼の道を辿るかのような、苦難の絶えない巡礼の道という様相だったのだけれど。 ...
まさに「旅人」と化したかのような読書体験であった。 まあそれは、絶景をのぞんだり幾多もの素晴らしい出逢いがあって…というよりはむしろ、ちょうどスペインの聖ヤコブへと続くサンチアゴ・デ・コンポステッラ巡礼の道を辿るかのような、苦難の絶えない巡礼の道という様相だったのだけれど。 これはスペイン語翻訳という仕事の成熟度が(残念ながらまだ)高くないせいかもしれないけれど、プラトンの『国家』を読んでいるときのような問答形式で展開する物語から生まれる高揚感があまり感じられなかった。とくに冒頭のアンドレニオとクリティーロが出会う考などの対話問答は「え、ちゃんと相手の話聞いてる?」と問いただしたくなるようなリズムの悪さが目立った。これについては原典を読んでいないのでなんとも言えないけれど、注が大量に入れられたグラシアンの文章についてその格式を保ちながらもわかり易い日本語へ翻訳するという西日翻訳の苦しみが露見したところなのかもしれない。とはいえ『国家』にしたってそれはもう大量の注がついているわけだけれど、その点はプラトンの文章が鮮やかであったと言うべきなのだろう。 グラシアンは本作を通じてずっと、善徳・悪徳や人間の品行を表す登場人物を寓意的に登場させている。洒落も含んだキャラクターが様々に得意げな登場をさせられるのだが、如何せんこれがくどく、パッとしない。17世紀スペインということでそれほど古くもない時代なのだけれど、これなら『カンタベリ物語』を読んでいるほうがまだこころ楽しいというものである。もちろんこれはグラシアンが厳格なカトリック修道士であり、そんな彼が「太陽の沈まぬ国」と称された王国スペインがついに沈もうとしている凋落期を憂いて書いている文章だからこころ楽しくなんて読めるはずもないという理解をすべきなのだろう。けれどもそれにしたって、この本を読むのはなかなかに苦痛だった。 とはいえ漂流の地から「不死の島」までに至る一連の旅を総合的に俯瞰すると、ダンテ的周遊を続ける主人公たちにどことなく感情移入させられていたような気もする。そうした意味を考えると、僕達はこの回りくどく説教くさい文章を読み通すことでこそ、良き旅人としての人生を疑似体験できるのかもしれない。 さてさて、もちろん本書には良いところもある。 こんな「苦行」のような読書体験に愚痴を述べつつも、王国スペインが没落しゆく世情における文化や欧州国家間の相対的関係性、あるいは日本を含む遠い国々に対するイメージ。17世紀のこんな空気を掴むためにはまさしく良書と言うほかない。ニーチェもショーペンハウアーも愛したグラシアンの研究では一定の成果が挙げられており、本書への注も大変充実していた。またスペインをめぐる知識だけでなく、ギリシアをはじめとする様々な神話について学ぶためにも良い機会を得られる書物であったと言えよう。 ともかく、あるいは上記のような事情があるからこそ、読み通したときの達成感は声にできないほど大きい。片手間ではない「本気の苦行(修行)」としての読書を通じて「旅人」になってみてはいかがだろうか。
Posted by