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グスタフ・マーラー 開かれた耳、閉ざされた地平
4,180円
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 春秋社 |
発売年月日 | 2009/11/20 |
JAN | 9784393937808 |
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グスタフ・マーラー
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グスタフ・マーラー
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商品レビュー
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2010年と11年はマーラー生誕150年と没後100年、それを見越したのかわからないが、2009年に出版された本書は、春秋社編集部から著者にマーラーの評伝を書かないかとオファーがあったのだという。それに対して著者はそういう本はもうすでにいくつもあるということでかなり躊躇したとい...
2010年と11年はマーラー生誕150年と没後100年、それを見越したのかわからないが、2009年に出版された本書は、春秋社編集部から著者にマーラーの評伝を書かないかとオファーがあったのだという。それに対して著者はそういう本はもうすでにいくつもあるということでかなり躊躇したという。それは本書を手に取るほうも同じであり、今さらマーラー伝に新しいことはあるのかと思わなくはない。そのうえ著者はクラシック・ギタリスト。確かに第7交響曲にはギターのパートはあるが、ギタリストの書いたマーラー伝といささか首をひねってしまう。もっともこの著者にはすでにブルックナー本がある。 それで買ってはみたものの。最初のほうを少し読んで、しばらく積ん読になっていた。 ところが前島良雄著の『マーラー』を読み始めて俄然面白くなってしまい、途中から本書を平行して読み始めた次第。悲劇のヒーローとしてのマーラー像を否定する前島『マーラー』に対して、田代『グスタフ・マーラー』はよくも悪くもバランスよくいろんな見解を併置する。ユダヤ人としての出自は言われるほどにネガティヴになっていなかったとする前島『マーラー』に対して、ユダヤ人の疎外状況から書き起こされる本書は、前島が批判するような点を多く含むが、他方、前島が省いた部分の記載があって相互補完的である。 マーラーに対する批判的な批評などはこちらのほうによく書いてある。また、前島『マーラー』では簡略に書かれていた生い立ちもこちらのほうが詳細。もっともマーラーの幼少期の情報はそもそもが多くはないようだ。アルマ・マーラーの手記では粗野な暴力オヤジのように片付けられてしまっているマーラーの父がいかに息子のことを気にかけていたかもよくわかる。 それも含め、アルマに歪曲されたことごとが修正を図られているところは、前島『マーラー』とも多々共通する。 本書の最大の特徴は、まるで《大地の歌》の終結部の「ewig」の繰り返しや、「死に絶えるように」奏される第9交響曲の終わりのような、深い余韻が刻まれているところである。マーラーの死まで綴られたあと、彼の周囲の人々のその後が語られるのである。 マーラーを継承するシェーンベルク、ヴェーベルン、ベルク。妻アルマと不倫相手だったグロピウスとの子マノンの死はベルクのヴァイオリン協奏曲の作曲を促したことは有名な話である。マーラー指揮者ヴァルター、クレンペラー、フリート。そして「自分にとって人間には二種類しかない。才能のあるものと、そうでないものだ」と嘯きつつユダヤ人を守ろうとして、ナチスの攻撃に晒される盟友リヒャルト・シュトラウス。日本にマーラーを伝えるプリングスハイムとローゼンシュトック。ナチス協力者として厳しい追及を受けたメンゲルベルク。人生は巡り、時代は巡る。いや、ユダヤ人の苦難から話を起こされる本書は同じテーマに戻ってしまうのだ。まるでマーラーの死が戦争と大量虐殺を呼び込んだかのように、彼の周囲の人々には大変な時代が待ち受けているのである。 そして最後のセクションは「アウシュヴィッツのアルマ」。これは妻アルマではなく、マーラーの妹と結婚したヴァイオリニスト、アルノルト・ロゼの娘のアルマ・ロゼである。彼女はナチスに逮捕され、アウシュヴィッツで女性だけの楽団の指揮を命じられる。「ここでは音楽は、人を労働やガス室に駆り立てる権力の代行者だった。ここでは『復活交響曲』も『千人の交響曲』も、誰ひとり救えなかった。ここアウシュヴィッツでは、音楽は憎しみの対象でしかなかった」。何とも過酷な指摘をする著者に苦々しい共感を送りたい。音楽では人は救えない。戦争からも震災からも。それでも音楽をわれわれは必要とするのだ。
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