波瀾の時代の幸福論 マネー、ビジネス、人生の「足る」を知る

ジョン・C.ボーグル【著】, 山崎恵理子【訳】

• 販売会社／発売会社: ランダムハウス講談社
• 発売年月日: 2009/07/10
• JAN: 9784270005156

商品レビュー

2021/02/27

バンガード・グループの創始者にしてインデックス投信の生みの親、ジョン・C・ボーグルの幸福論。億万長者に言われても説得力はないかもしれないが、人生の幸福は強欲と欺瞞によって得られる富や名声ではなく、自分に与えられた能力を使って世界を築くための闘いに全力を尽くすことにあると説く。ちなみにお金に関しては長期・シンプル・低コスト、ビジネスについては職業倫理の重要性を強調する。

訳出は2009年で、その後 2021年に『人生のダイヤモンドは足元に埋まっている』と改題されているが、いずれの題名も原題 "Enough - True Measures of Money, Business, and Life" に遠く及んでいないセンスの無さが哀しい。

2019/12/31

原題 Enough: The Measures of Money, Business, and Life (2009)

第1部マネー
コストより「価値」を
投機より投資を
複雑さよりシンプルさを
第2部ビジネス
計算より信頼を
ビジネスより職業人の行動を
販売精神より受託責任を
（ものを正しく行う）マネージャーより（正しい行いをする思いやりのある）リーダーを
第3部人生
モノへの執着より責任ある関与を
21世紀的価値より18世紀的価値を（啓蒙主義、理性、自由主義的博愛主義）
成功より「人格」を

筆者の生い立ちから理念がよく分かる。金融界の経営者たちは巨額な報酬を得ているが、そのコストは金融業界が生み出す価値より高い。現在の投資家が大きな恩恵に預かっている背景には「生涯にわたって投資家の役に立つ」という夢を持った筆者の孤軍奮闘があった。

資本主義の行きすぎで「足る」の感覚が失われ、職業人倫理、信頼、不変の価値が失われ、計算に基づき一時的価値を追いかける。幻想の宝物を追い求めると、足元にある本物の宝物が見えなくなる。精神の強さはあらゆる障害を乗り越える。ファンドを自分で運用することで運用コストを節約する、「新たな潮流の先駆者」になるべくバンガード社を設立。インデックスファンドを創設。1977ノーロードの導入。投資とは長期にわたって企業を所有すること。幅広い銘柄に分散し、時価総額で加重されたポートフォリオ。

数字の経済は現実の経済をむしばむ。政府はものさしを調整し、金融機関は過去の実績が今後も続くとし、企業は私利私欲のために数字を変える。計算は信頼がなければ空しく終わる。健全なバランスをとる必要がある。株主は個人投資家から（他人の金を管理する）機関投資家へが主体に。長期的投資から短期的投機に。

ビジネスの側に職業人の倫理規範を。責任を持ち、献身的かつ賢明に奉仕する。オーナー資本主義からマネージャー資本主義への変化により、企業価値を高めることより株価を上げることが目的に。ファンド業界は他者から委ねられた仕事を他者のために責任を持って遂行する「受託責任」と長期投資の原則を守るというビジョンを持つべき。ファンドを保有するのではなく、取引するファンド投資家のリターンは、ファンド自身のリターンを下回る。企業が生き残り、繁栄していくためには、ただの金儲けを超えた価値観と目的がなくてはならない。さらに、人格とビジョンを備えたマネージャーとリーダーが必要。

成功とは社会にどんな貢献をするかで測られる。自分自身の期待と自分の持っている能力を最大限に発揮しているかどうか。人格形成には失敗経験、逆境、熟考、心、自分の空間、高潔さが必要。社会に価値を創造する挑戦をすることで人格が磨かれ、仕事の支えになる。

幸福を決めるのは自主性、人間関係の維持、能力の活用。長期的には社会の心臓となるのは、モノや権力や金ではなく価値観や美徳。人生で大切なのは、自分自身を新たにし、地域、国家、世界を築くための闘いに全力で参加すること。

2018/09/13

かの有名な米国のバンガード社を創設したボーグル氏の著書です。投資の具体的なことよりも、自分の人生を通じての投資哲学のような内容で、改めて長期・国際分散投資の大切さを実感できます。役員報酬を何億円、何十億円ともらいながら、まだ強欲に金を得ようとする会社経営者にこの本を読んでほしいものです。

「足るを知る」、重要です。（自戒の念も込めて）