商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 集英社 |
発売年月日 | 1983/07/01 |
JAN | 9784087506464 |
- 書籍
- 文庫
捜査一課長
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捜査一課長
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超流行作家だつた清水一行氏が亡くなつてから丁度10年が経過いたしました。企業小説で名を上げた清水氏が、推理小説・警察小説作家としてもその力量を十二分に示した『捜査一課長』を取り上げませう。 横浜市鶴見区にある知的障碍児施設の光明学園で、12歳の女児が行方不明となります。そ...
超流行作家だつた清水一行氏が亡くなつてから丁度10年が経過いたしました。企業小説で名を上げた清水氏が、推理小説・警察小説作家としてもその力量を十二分に示した『捜査一課長』を取り上げませう。 横浜市鶴見区にある知的障碍児施設の光明学園で、12歳の女児が行方不明となります。その二日後、今度は同じく12歳の男児が行方不明に。 警察と学園側が捜索した結果、学園内の浄化槽の中から無惨な二人の溺死体が発見されます。誰がこんな惨い事を? 浄化槽の蓋は17㎏の重さがあり、児童には持ち上げる力はないと判断され、殺人事件として捜査本部が設置されます。 外部からの侵入は可能性が低いとして、学園内部の者の犯行が疑はれました。捜査の経過で浮かんで来た容疑者は、22歳の保母・田辺悌子。しかし学園側は捜査を拒否、警察と全面対決の姿勢を見せます。その急先鋒に立つのが26歳の指導員・畔上浩でした。死体の第一発見者でもあり、組合の過激な活動家であります。此奴は始めから警察には挑戦的な態度を取り、あらゆる手段を用ゐて警察の捜査を妨害します。政治的背景から園長の坂井京治すら畔上には逆らへぬ状態で、学園内では異常な人物相関図があるやうです。数少ない捜査の協力者である副園長・駒村郁夫の意見もかき消されます。 結局、物証は上がらぬものの、状況証拠で田辺悌子以外の犯行は不可能といふことで、警察は逮捕に踏み切りました。田辺は自白をするものの、弁護士との接見の後、「あれは全て嘘です」と供述を覆すことを繰り返し、捜査陣は掻き回されるのでした...... 捜査の主役になるのはタイトル通り捜査一課長の桐原重治ですが、従来のやうなヒーロー探偵的存在ではありません。鶴見警察署長の浪方進一、神奈川県警刑事部長の鈴木恒雄、捜査一課主任の坪田勇、派出所巡査の山本孝男など、あくまでもチーム主体の、派手さはないが地道な捜査をすすめる、或る意味まことにリアルな展開を見せるのでした。現在警察小説は百花繚乱の印象ですが、解説の権田萬治氏によると、意外にも当時はかういふ形式は斬新で、一部島田一男氏の作品に見られる程度だつたさうです。 で、本作で言及を避けて通れないのが、1974(昭和49)に発生した「甲山事件」との関連であります。本書冒頭にも「この作品は現実に起きた事件をヒントを得たものですが、フィクションであることをお断りします」との記述があるのですが、学園の場所こそ違ふものの、甲山事件に酷似した内容であります。作中にある光明学園の見取り図が、Wikipediaの「甲山事件」の航空写真と左右反転しただけでほぼ同じなのです。 実際の事件では、田辺悌子のモデルとなつた女性は無罪が確定してをり、彼女は清水一行氏と版元に対し名誉棄損の裁判を起こし、勝訴してゐます。その結果本書『捜査一課長』は出版差し止めとなり、絶版扱ひとなりました。道理でアマゾンの中古品が定価の三倍以上で設定されてゐるのですな。わたくしは新刊出版時に定価440円で購入してゐます(当時は消費税は未導入)。 ただ、無罪となつたのも完全に疑ひが晴れたといふよりも、決定的証拠が遂に見つからないといふ「疑はしきは罰せず」の原則によるもので、結局真相は藪の中、すつきりしない結末でした。 まあ、さういふ事情を抜きにしてもまことに面白い一作であります。時間を忘れてあつといふ間に読了したのでした。
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