われ生きたり

金嬉老(著者)

• 販売会社／発売会社: 新潮社/
• 発売年月日: 1999/12/10
• JAN: 9784105392017

商品レビュー

2010/06/22

この本だけを読めば、民族差別を訴えている素晴らしい本であるのには違いないのだが。この本の執筆後、金嬉老は2000年に講演会がきっかけで親密になった愛人の夫への殺人未遂と放火および監禁事件を引き起こした為、逮捕され服役したということであるのなら、果たしてどうなんだろうかと思ってしまう。

2010/02/20

金嬉老死す、というニュースが飛び込んできました。無期懲役刑を受け24年間服役していましたが、日本に帰って来るな、というお達しつきで70歳のとき釈放されて11年、韓国で英雄として充実した余生を送っていたのでしょうか。

今から42年も前、1968年2月20日に在日韓国人二世の金嬉老(キム・ヒロ、きんきろう、39歳)が、静岡県の寸又狭温泉の旅館に人質13人を監禁して立てこもるという事件が勃発。

ここへ来る前にすでに暴力団員2名を射殺しており、そのときのライフル銃の他にダイナマイトも所持していたから、さあ大変、大事件としてセンセーショナルに報道された、そのことで、まず半分以上の目的を達成し、そしてあとの半分は、ここからが彼の独壇場なのですが、日頃から在日韓国人・朝鮮人としての自分がいかに差別・蔑視されているかを、敢然と告発したのです。

ハイジャックを含めた、いわゆる過激派などの爆弾テロとなんら変わりない、許し難い非人道的な犯罪行為だとすることが、この社会の常識的考えですが、もちろん私もけっして許すべきではないと、そう思いますが、その一方で、こういう犯罪を犯してしか訴えることができなかった彼と、彼の背後の無言でいる同じ苦汁をなめた人たちのことを、少しでも考える契機になるたいへん意味のある行為だとも思わなくもありません。

侵略・植民地化から強制連行による差別・抑圧の歴史を持つ在日韓国人・朝鮮人問題は、もちろん私たち日本人によるただの懺悔で済むことではけっしてありませんが、過ちを犯したのは当時の軍国主義が悪いという他人事ではなく私たち自身の問題として捉えるという、正確な歴史認識による相互の共通理解にもとづく新たな歴史への歩みを共にするということでなければ、いつまでたっても後ろ向きな関係でしかないと思います。

それと最近とみに気になって仕方がないのは、祖国という意識は確かに大切なものかも知れませんが、どうひいき目に見ても明らかに北朝鮮は狂った独裁国家であるという事実は否定できないのに、あいかわらず朝鮮高校などではすばらしい国で偉大な金正日様というような教育がなされていること、柳美里なども北朝鮮へ行って何がしかの発言をしている情況を、憂わざるをえません。

射殺された暴力団員2名には気の毒な名誉の戦死で、監禁された13人の方々はさぞかし生きた心地がしなかった88時間でしたでしょうが、この15人の尊い犠牲によって、日本の在日韓国人・朝鮮人問題の前に鋭く屹然と刻印する異議申し立てを提示したひとりの男が、いまこの日に命を終えたという事実です。

ひょっとして、私くらいしか彼の死を感慨深げに思う変人はいないかも知れないと思って、あえて書きました。