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日本世間噺大系 新潮文庫
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日本世間噺大系 新潮文庫

伊丹十三(著者)

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日本世間噺大系 新潮文庫

781

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 新潮社/
発売年月日 2005/06/27
JAN 9784101167350

日本世間噺大系

¥781

商品レビュー

4.1

14件のお客様レビュー

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2010/05/28

圧倒的な薀蓄。とにか…

圧倒的な薀蓄。とにかく、著者の知識と好奇心には只々敬服するばかりです。勿論、その裏から浮かび上がるのは、文明に対する確かな批評眼でしょう。

文庫OFF

2010/05/28

例えば、『お葬式』や…

例えば、『お葬式』や『マルサの女』といった映画から感じられたのは、私達が何となく知ったつもりになっている習慣や風習、あるいは秘密のヴェールに覆われていて、知る事の出来ない特殊な業界などの、薀蓄の楽しさだったと思うのですが、それは、著者自身の好奇心旺盛な人柄が反映されていたのでしょ...

例えば、『お葬式』や『マルサの女』といった映画から感じられたのは、私達が何となく知ったつもりになっている習慣や風習、あるいは秘密のヴェールに覆われていて、知る事の出来ない特殊な業界などの、薀蓄の楽しさだったと思うのですが、それは、著者自身の好奇心旺盛な人柄が反映されていたのでしょう。本書は、その好奇心が大いに発揮された、文章としての成果です。

文庫OFF

2024/01/27
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「先生、これは無理です。辛くてとても食べられません」  乃公(おれ)はつい弱音を吐いてしまった。 「ほう、食べられないかね。食べられぬものを無理にとはいわないが、しかし、仮にも芸術家を志すほどの者が、このくらいの辛さに平行しているようじゃ話にならない。これは或る心理学者の説だが、一体芸術家ほど辛い物を好むということで、これは全く私も正しいと思う」  途方もないことを云い出した。たかが菹(キムチ)くらいのことで芸術家を失格しては堪らぬから、乃公は素早く白菜をもう一切れ頬張り、肺をポンプのように活動させて口の中の火を消しながら尋ねた。 「しかし、芸術家ほど辛い物を好むというのは、どういう根拠からです」 「どういう根拠って、考えれば判るだろう。クレッチマーの分類に、寒いとすぐに外套を着る人というのがあるが、君なんぞは差し詰めそれにピッタリだ」 「私は寒いとすぐ外套を着るんですか」 「外套というのは物の譬えでネ。つまり行動が専ら外的な条件に支配されているということだ。寒いという外的条件が直ちに外套を着るという行動を喚び起こす。そこには芸術家として不可欠の内省というものがかけらも無いというんだな」 「だって寒けりゃ誰だって外套を着るでしょう。一体何を内省するんです」 「たとえば外套を着ない方が体を鍛えるためにはよいのではないかとかーー」 「なんだ、そんなことですか」 「ホラ、君はすぐ軽蔑するだろう。もしかすると、それが自分の状態を正確に云い当てている心理ではないかと疑ってみようとすらせぬ。先刻も君は菹が辛くて食えないと云った。つまり辛いという外的条件に対して、直ちに食えないという反応を示した」 「しかし先生、あれはーー」 「まァ、黙って聞きなさい。君は辛いから食えんという。これはどういうことか。わたした思うに、君が自分の味覚と思っているものは、実は世の中の相場に過ぎんのだな。世の中の尺度が自分の尺度になっているから、味を知っているという人の云うことにすぐ左右される。私がこの蕎麦屋が旨いというと君はすぐにそれを信じる。自分で考えるという努力をしない。自分の馴れぬ味だと、味その物を否定して、辛い、食べられぬ、とこうなる」 「ーー」 「辛いけれども、朝鮮の人はみんな食っている。なぜ同じ人間でこれが食えないのか。この辛さも馴れればなんらかの旨みに繋がってくるのではないか。せめてそのくらいのことすら君は考えつかぬ。現実を頭から肯定することへの抵抗というものが君には全くないんだ」 「ーー」 「芸術家とは自分の内奥を見詰める人だろう。辛さに辟易している自分をもう一つの自分が周到に観察する。どこまで自分が耐えられるか。ぎりぎりまできて自分がどのように応ずるか。それを具に観察するのが芸術家というものだろう。考えてみれば菹ほど自己観照を誘う食べ物はないんだ。それを君は辛いから食えないという。恥ずかしいとは思わないのかね。食えないなら、どうしたらそれが味わえるようになるかと自問自答してみる。これが自己批判になる自己改造に繋がるんじゃないか。菹が食えないと云った瞬間、君は芸術語る権利を自ら放棄してしまったんだ。馬鹿だよ君は」  自分のような日頃健康なものにとって風邪のひき初めというものはなにがなし物珍しく甘美なものである。思いっきり世の中に甘えてみたいような、また、それがいかにも当然であるかのような、甘酸っぱい心持ちがする。

Posted by ブクログ

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