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戦場の一年 現代イタリア小説クラシックス
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 白水社/ |
発売年月日 | 2001/05/05 |
JAN | 9784560047170 |
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戦場の一年
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戦場の一年
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第一次世界大戦の北イタリア国境、オーストリア軍と相対したイタリア軍の塹壕戦の記録。さっきまで傍らで話した兵士がいつの間にか撃たれて絶命している。無謀な鉄条網の爆破作戦で古参兵が無残に散る。ヒステリーに陥った上官がいたずらに銃殺刑の執行を持ち出す。 やっぱり戦闘が始まる直前が一番...
第一次世界大戦の北イタリア国境、オーストリア軍と相対したイタリア軍の塹壕戦の記録。さっきまで傍らで話した兵士がいつの間にか撃たれて絶命している。無謀な鉄条網の爆破作戦で古参兵が無残に散る。ヒステリーに陥った上官がいたずらに銃殺刑の執行を持ち出す。 やっぱり戦闘が始まる直前が一番緊張が高まるものらしい。自分の精神とこれから起こりうる状況との間に平衡を取り戻すためにコニャック、コニャック、コニャック!アルコールは戦場に欠かせないようだ(著者が生き残ったのは下戸だったからかもしれない)。 戦場の現実は退屈で陰惨だ。いいことなんてなにひとつない。なにより、現場の兵士はなぜこの戦争が起こっているのかについて、語ることは少ない。すべてはお上の胸先三寸で、若い命が散っていくのはいつの時代も戦争の常だ。 近代の戦争は空爆で地ならししたところに機動力の高い強襲部隊を投入して、迅速に市街戦の勝利を目指すのがセオリー。山岳地帯の塹壕での巨大兵力のにらみ合いというのも、今となっては牧歌的にすら思える。 これからはさらにドローンやロボットの台頭で、戦争は姿を変えるだろう。火力のの非対称性は広がって、虐殺性ばかりが高まっていくだろう。それはもはや人間性すら存在しない、単純な殲滅戦。攻撃する側もされる側も、感情の起伏が起こる前に勝負は決する。そして残された人々がすべての悲しみを引き受ける。 戦場の日常を淡々と描いた本作は貴重な遺産だ。やや演出過剰な部分はあるが、「人間が人間の命を奪うために働くことの矛盾」を、これからの時代にも突き続けるだろう。
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これは小説ではない。著者自らが従軍した兵役の一年間の記録を綴ったものである。第一次世界大戦下、イタリア北部国境の高原地帯でオーストリア軍と対峙する位置に掘られた塹壕の中で、著者は将校として何度もの戦いに参加する。およそ勝てる見込みのない戦いばかりが続く最前線にあっては、誰もが少し...
これは小説ではない。著者自らが従軍した兵役の一年間の記録を綴ったものである。第一次世界大戦下、イタリア北部国境の高原地帯でオーストリア軍と対峙する位置に掘られた塹壕の中で、著者は将校として何度もの戦いに参加する。およそ勝てる見込みのない戦いばかりが続く最前線にあっては、誰もが少しずつ正気を逸していく。無能な上官。反乱を企てる兵士たち。コニャックの瓶を片時も手から放せない将校たち。そんな中で、「わたし」だけは、事態を客観的に観察することができる。リキュールを飲まず、珈琲と水だけを飲んでいるからかもしれない。 ついさっきまで話していた同僚が、ちょっとした不注意やつまらぬ勇気を誇示した結果、敵の銃弾に当たって死んでしまう。はじめから生還の見込みのないでたらめな命令で出撃し、著者の目の前で死んでゆく仲間の将校。死は、唐突に来もするし、筋書き通りに来たりもする。チョコレートが大量に支給されたら、明日は戦いがあるのだ。コニャックで頭を痺れさせておかなければ続けることができない戦争。本当の戦争はきっとこういうものなのだろう。滑稽で、しかもグロテスクだ。 大岡昇平の『俘虜記』を思わせる場面にも出会う。ある日、相手に気づかれることなく敵軍の様子が覗ける場所を発見した「わたし」は、そこでひとりの青年将校を照準の中にとらえることに成功する。しかし、相手のたばこの煙を見ているうちに自分もたばこが吸いたくなったその一瞬、それまでは敵としてしか見てこなかった相手の中に「人間」を発見した「わたし」はついに引き金を引くことができない。 声高に反戦を主張するのでも、戦争の悲惨さを訴えようとするのでもない。「わたし」は何者をも代表しようとはしない。著者は言う、「わたしは自分の目で見たもの、そしてわたしの心に強く残ったことしか書かなかった」と。次々と死んでいく仲間たちの中で著者ひとりが生き延びたのは、ひとえに、戦争の中で自分をなくさなかったことにつきる。ここに見られるのは、きわめて真摯に戦争という異常事態の中を「正気に」生きぬいた男の生の軌跡である。 著者のエミリオ・ルッスは、反ファシストの闘士であり、逮捕、脱走の後レジスタンス運動を経過し、上、下院議員を経て大臣に至る著名な政治家である。世に政治家にしてすぐれた文筆家もいないではない。しかし、著者のような目で、戦争というものの姿を見つめ、このような文章で書くことのできた政治家を寡聞にして知らない。
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