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旅する帽子 小説ラフカディオ・ハーン
2,530円
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 講談社/ |
発売年月日 | 2000/03/21 |
JAN | 9784062099844 |
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旅する帽子
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「わたくしは、しかし、この日本において、日本にしか存在しなかった恒久不変を、はかなさを深く受け入れようとするあの永遠性を、影のまわりにあるあの明るい外形(アウトライン)を、ひかりを作り出した物体が消え去ったあとに残るただ一つのひかりを、見つけた。」-『松江(1890~1891) ...
「わたくしは、しかし、この日本において、日本にしか存在しなかった恒久不変を、はかなさを深く受け入れようとするあの永遠性を、影のまわりにあるあの明るい外形(アウトライン)を、ひかりを作り出した物体が消え去ったあとに残るただ一つのひかりを、見つけた。」-『松江(1890~1891) 明治時代に起きた激動は今も日本人を何か異常に刺激するのだな、と年末来のテレビを見ていて思う。と同時に、どうにもならない居心地の悪さも感じていることも意識される。秋山兄弟が、そして坂本龍馬が、次々に取り上げられる。その現象が、この誰もかれも元気のない現代日本社会におけるロールモデルとしての提案とその安易な受け入れを現わしているのか、と頭の片隅で囁く声がする。何故か徒労感に似た感覚をおぼえる。シバリョウに騙されている気がする。 ヒロイックな人間というのもは確かに居る。しかし、だからといってその人物を偶像として祭り上げ、この混迷の世界に自分がどのように挑むのかの理想像として定めるのはどうだろう。結果の解った後世からの視点で何か功を為した人物を正解とすることは、端的に言ってずるいような気がする。それに、この余りに熱の籠った取り上げられ方にはどこかキナ臭い雰囲気がある。国粋主義的な匂いがする。 例えば白洲次郎もしばしばヒロイックな人物として取り上げられることがあるが、次郎はよい(と勝手に思う)。トライを得ようとトリッキーなプレイをするスタンドオフのような偶像ではなく、最終戦を守るフルバックのような人物だから。智に働いて角が立つのを厭わない人物であるから。ボールを持ったらフェイントを掛けまくって一か八かの突破口を見い出す人物をロールモデルとするのは危険すぎるのではないか、そんな思いが「旅する帽子」を読んでいたら、頭の中を満たして来た。 「怪談」の小泉八雲がラフカディオ・ハーンであるというのを、小学生の自分はなかなか呑み込めなかったが、その物語にどこか昔話とは違う雰囲気があることは感じていた。今から後付けで理屈をこねれば、オリエンタリズムのような風情があったのだと意識化させることができるが、案外その趣味に魅せられてもいた。例えば芥川の短篇などに惹かれると同質のアトラクティブネスがある、とまたまた今なら整理できる。しかし、そんな拭い切れない東洋趣味はあるとしても、八雲がハーンであるというのは素直に驚きであったし、その失われていく世界を彼岸からの目ではなく此岸から文字に残そうとする八雲を「旅する帽子」の中に発見して妙に納得がいくのも事実だ。そうしてみて、何故自分が小説として再構築されて描かれる龍馬や秋山兄弟に肩入れできないのかもぼんやりと解るような気がする。 よく異文化に触れて却って盲目的な愛国者となってしまう人を見るけれど、それは結局のところ異なる価値観を無視することが根本にあって無知よりも性質が悪い。理解しがたいものを理解不可能なものとして受け容れるふりをするうちに、無理解の外形は次第に溶けて行く。本書の中で、まるで禅の修行のようなその困難な道を歩む人としてハーンは描かれるのだが、そこに猛烈な共感を覚え、同時に偶像として祭り上げられる明治の日本人との違いを嗅ぎ取る。そのことをロジャー・パルバースの筆を通して知ることに多少諧謔的ニュアンスも我ながら感じるけれども。 果たして八雲が残そうとした心を日本人は真に失ってしまったのだろうか。自分には解らない。しかし失ってしまったのであれば再び取り戻せばよいのだ。日本の高温多湿な気候が持つ自然治癒力は幸いにして未だ残されている。四季が巡れば新たな生命が生まれ、再生が行われるという認識は現代日本人の中にも生きているだろう。それは案外限られた地域の人々にしか理解し得ない感覚でもある。それこそが八雲が残そうとした日本人のものの捉え方の根源であり、気質でもあると思うのだ。勝った負けたと騒ぐじゃないぜ、と昔チーターも言っていたじゃないか、と思ったりするのだ。ああ、だから自分はカツマーが好きになれないんだな。
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