商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | DHC/ |
発売年月日 | 2000/07/01 |
JAN | 9784887241909 |
- 書籍
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フェンス
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フェンス
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『すでに日は傾きはじめている。夕闇が迫るにつれて、風が少し強くなり、木々はざわめき、フェンスのワイヤーも歌うように鳴った。帰る道すがら、ふと疑問がわいた。「やつは本当に死んでたよな?」「まちがいないさ」リッチーが言った。「牛はどうなるだろう?」「だいじょうぶさ」』 『完成したパ...
『すでに日は傾きはじめている。夕闇が迫るにつれて、風が少し強くなり、木々はざわめき、フェンスのワイヤーも歌うように鳴った。帰る道すがら、ふと疑問がわいた。「やつは本当に死んでたよな?」「まちがいないさ」リッチーが言った。「牛はどうなるだろう?」「だいじょうぶさ」』 『完成したパーキンズ氏のゲートは、左右のフェンスができるまではどこと通じているのでもないが、とてもりっぱに見えた。道具をトラックに戻しながら、ふと疑問がわいた。「やつは本当に死んでたよな?」「まちがいねえさ」タムが言った。「羊はどうなるだろう?」「だいじょうぶさ」』 主人公「おれ」には名前が無い。酷い境遇に甘んじて生きなければならないというのに。スコットランドの小規模なフェンス建設会社に勤めるイングランド人。スコットランド人の現場叩き上げの雇い主が理不尽なら、二人のスコットランド人の部下(一人は杭打ちが得意で、もう一人は穴掘りが得意)も決して言うことを聞かない。中間管理職の悲哀。それどころか濃い人間関係で結びつく地元民で溢れ返る異郷の地の酒場でちょっとした疎外感も味わう。意欲的な経営者が請け負ってきたイングランドの現場では、地元民とよそ者である部下の間で板挟みにあうかと思えば、かと言ってそこ以外に気晴らしに行く宛てもなく、全てはいつかどこかで見たような光景。常に繰り返される同じ揉め事や雑事に振り回される。 二人の部下を連れて出掛けていく現場では、仕事の手順は狂いっぱなしであるにもかかわらず、誰も彼もが非協力的。そのうえ、手持ちのお金もない癖に仕事終わりにパブで散財さしないと一日が終われない部下の労働意欲を維持するために、仕方なく(時には率先して行きたくなる日もあるとはいえ)飲みに出掛ける。仕事は常に遅れている。遅れを取り戻すべく部下に発破を掛けたいが、新参者である「おれ」にはそれができない。更に、次々と起こる突発事故でいとも簡単に人が死ぬ。けれどそれはフェンスを仕上げることより重大なことではなく、事件は起こった瞬間に無かったことにされ闇に葬られる。 厄介事が積み上がった状況から逃げ出したと思っても、神様の悪戯か、全ては振り出しに引き戻され、かつ、状況はどんどん悪化し軛は重くなる一方だ。そして隠し果せたと思っている悪事は、最も知られてはならない人物に露見する。万事休す。しかも明日もまた杭を打ちワイヤを張りフェンスを作るだけ。繰り返し、繰り返される理不尽。 なんとも言えないブラックユーモアだが、決して辛辣な風刺を効かせたという風でもない。むしろ、漂うのは悲壮感ではなく冷たい雨の中で嫌々ながらも黙々と仕事をする人のしぶとさである。つまり、そこに描かれるのは風刺ではなく、そこはかとない連帯感と言った方がよいような気がする。そしてその連帯感のようなものを生み出す土壌となるのは、身内か部外者かの峻別であり、それが何よりも優先される。とはいえ、ひょんなことから扱いが逆転することもある。もちろん、これは肉体労働を強いられる仕事人たちの社会での典型的な状況でもあるけれど、考えてみれば事務所勤めをする労働者にも等しく当て嵌まる。人は誰でも自分の人生の主人公ではあるけれど、他人から見れば誰しも「名無し」の主人公なのかも知れない。
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フラン・オブライエンなどによる一流の与太話が好きなひとには最高の小説ではないでしょうか。2人のスコットランド人と1人のイングランド人。かれらは日が昇っているあいだは働いて、日が沈めば飲みに行く。それだけの日々が、なぜだかすごく羨ましくも思えてしまいます。なにかの受賞作だそうです。
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