すべては愛に 天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの生涯

ギリアンヘルフゴット(著者), アリッサタンスカヤ(著者), 中埜有理(訳者)

• 販売会社／発売会社: 角川書店/
• 発売年月日: 1997/04/25
• JAN: 9784047912700

商品レビュー

2022/12/18

優れた創造性に狂気はつきものなのか―十代でコンクール六度の優勝､そして歴史に残るラフマニノフの演奏と､天才ピアニストの名を欲しいままにしていたデイヴィッド・ヘルフゴット｡
だが父親の尋常でない愛情が葛藤と隔絶を生み､少年の純粋な精神を狂気の世界へと追い込んでゆく…｡
言葉も､ピアノもない､堕落した生活｡しかしピアノは彼を見捨てなかった！
周囲の熱意と新しい出会いに支えられ､再び目覚め始めるデイヴィッド｡
そしていま､彼の新たなラフマニノフが奏でられる…｡
アカデミー賞映画｢シャイン｣の原作となった､感動のノンフィクション｡
デイヴィッド・ヘルフゴットがいかに父親との確執から起こったトラウマをカウンセリングなどで乗り越えてきたか、タバコやコーヒー中毒だったデイヴィッドが長いコンサートが出来るように中毒を越えることが出来たか、複雑なデイヴィッドとデヴィッドの父親との確執、パニック障害などの状態になった時にどう対応したかなど、映画では詳しく描かれていないことも詳しく描かれていて、映画を見た人でも楽しめます。

2012/09/17

映画『シャイン』の原案となった、デヴィッド・ヘルフゴッドの妻の視点からまとめられた伝記。

再生のチャンスは必ず訪れる。
私も許したい。

2011/10/22

一章一章読み進むのが本当に辛かった。なかなか最終章まで辿り着けなかった。なぜか自分の人生を重ねて見てしまう部分が沢山あるからだ。デヴィッドさんのご苦労もさることながら、それを支えた奥様のギリアンさんのご苦労を思うと、途方もないことをこのお二人は成し遂げられたのだと感じる。
デヴィッドさんの人生は、まるでラフマニノフのピアノ協奏曲第三番の旋律をなぞるような激動の人生だ。今読み終えて、ラフマニノフの三番を繰り返し聴いている。この曲は私にとって特別な想いのある曲で、あまりに感情的になり過ぎてしまい、心が大きく大きく揺れている。
本の最後は、デヴィッドさんがあらゆる困難を乗り越え、辿り着いた美しい境地を垣間見て呟いたような彼自身の言葉で締めくくられている。私は読み終わって顔を両手で覆い、ひどく泣いた。
その最後の彼の言葉は、まるでピアノ協奏曲第三番の第三楽章、つまり最終楽章の最後の旋律と同じ。
小さな風が嵐を呼ぶようにして始まる第一楽章。憂鬱さと悲しみと混乱を極める第二楽章。力強く荒々しく始まる最終楽章。打撃から打撃へダメージを受けたまま瀕死の状態で運命に立ち向かう。過酷な逆巻く嵐の真っ直中へ、格闘するような旋律が次から次へと呼吸をするのも忘れさせるほど畳みかけてくる。旋律はメジャーからマイナー、マイナーからメジャーへと忙しく入れ替わり、メジャー音階が徐々に増え、明るくなり、輝きを増し、一気にクライマックスへと流れ込んだと思うと最後の一撃が襲ってくる。響くティンパニ、暗く低いピアノ、転げ落ちてくる音階、追い掛けあって重なり、もつれ、絡み合い、どこまでも堕ちていく。やがて緩やかで大きな流れがすべてを押し去り、流され、約束された真実の場所へと辿り着く。勝利を手にし、フィナーレはオーケストラもピアノもそれを讃えるファンファーレのように高らかに誇らしく鳴り響き、速さをあげて歓喜の旋律が怒濤の大滝の流れのごとく煌めきながら跳ね上がり、そして終わる！

『ぼくらもみんなそうでなくちゃいけないよ。過去はどうでもいい。現在を受け入れることだ。人生はいろいろなことがあるよね。でも、ぼくは思うんだ。ぼくは感謝するべきだった。そして、何も心配することはなかったんだ。だって、何もかも完璧に計画されていたんだからね』

溢れ出るものは果てしなく、言葉をつかまえる事が出来ない。感想にならない。本当に本当に本当に胸打たれた。この本を大切にします。（ブックオフにて１０５円で手に入れた事をお許し下さい）『シャイン』をもう一度観たい。
ありがとう。デヴィッドさん。ありがとう。ラフマニノフ三番。