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失われた時を求めて(4) 第二篇 花咲く乙女たちのかげに2
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 集英社 |
発売年月日 | 1997/09/24 |
JAN | 9784081440047 |
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失われた時を求めて(4)
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第二篇「花咲く乙女たちのかげに」で新しく登場するのは、海岸の避暑地バルベック。プルーストがよく訪れたカブールをモデルにした架空の町である。ジルベルトと会わなくなってもしばらくはパリにあるスワン家に通っていた「私」だったが、その傷も時が癒した。祖母に伴われてやってきた海浜の町で「私」は祖母の旧友ヴィルパリジ伯爵夫人の甥ロベール・ド・サン=ルーと親交を結ぶことになる。そこに、その叔父であるシャルリュス男爵がやってくる。「私」はその男がコンブレーのスワンの屋敷でジルベルトと一緒にいた人物だったことを思い出す。 19世紀フランス社交界を舞台にした本作品には、紳士貴顕はもとより卑賤な輩を含め多くの人物が登場するが、その中でもとびきり重要な人物がシャルリュス男爵であろう。作者がモデルの一人にしたのが稀代のダンディで、サロンの寵児であったロベール・ド・モンテスキュー。ユイスマンスの『さかしま』の主人公デ・ゼッサントの稀覯書や珍奇な装飾に溢れた部屋はモンテスキュー伯爵の部屋をモデルにしたものとも言われている。 澁澤龍彦『異端の肖像』の中に「生きていたシャルリュス男爵」の一篇がある。プルーストが如何にモンテスキューに取り入ろうとしたか、そして、自分が彼の眼鏡にかなわないと知ると、一人の音楽家を彼に差し向けご機嫌をとろうとしたか。落ち目の彼に追い打ちをかけるように自作の中に彼を思わせる人物を登場させ、その悪徳を暴いたかが描かれている。 プルーストは、一人の人物を創作するために複数の人物から必要な部分を採り入れているから、モンテスキューがそのままシャルリュス男爵であるわけではない。だが、当時の社交界の人々にとっては自明の事であっただろう。大公の称号だって名乗れるのに、ただフランス最古の貴族の名というだけのシャルリュス男爵の方を選んだ際の言葉「現在ではみなが大公になってしまった。それでも何か区別できるものが必要だ。もしお忍びで旅行したくなったら、そのときは大公の称号を身につけることにしよう。」は、モンテスキュー自身が吐いた科白だった。 そのシャルリュス男爵が、はじめて「私」の前に登場したとき、「私」は彼の目つきを狂人やスパイのそれ、怯えている動物の目か大道商人の目に喩えている。後々になって明らかになることをその前にこっそりと披露しておくというのが、プルーストのやり方である。「私」に対する奇妙な態度や不審な行動は、おいおい明かされる彼の性癖の伏線である。 貴族でありながら、ニーチェやプルードンの信奉者サン=ルーは、美貌で気どらない魅力的な若者として登場する。それに比べると、一緒にいたいから外交官になるのをあきらめたほどの初恋の相手ジルベルトも、第二篇で登場する新しい恋人「花咲く乙女たち」の一人アルベルチーヌも、印象が強いとは言えない。はっきり言ってしまえば、「私」にとって彼女たちは、野辺に咲く花々のように美しく可憐な存在に過ぎない。通りすがりに見た美しい花に馬車から下りて手折りたいほど心を動かされたとしても、次の曲がり角にはまた別の美しい花が待っているのだ。 それに比べれば、母や祖母、それにジルベルトの母であるスワン夫人に寄せる感情の方がよほど強い。オデットの衣裳や挙措動作を克明に描写する「私」の筆は、恋人の母親を描くそれではない。「私」が両親に懇願して観劇を許された女優ラ・ベルマが演じるラシーヌの『フェードル』は、母親が義理の息子を恋することから起きる悲劇である。「私」の「母」に対する感情が近親相姦的なものを含んでいることの仄めかしだろう。 自分に対する絶対の愛が保証されているのが母のそれだとすれば、若い女性には自分の知らないところで、自分以外に愛する相手がいるのではないか、という疑惑がいつもつきまとう。しかも、その相手が女性ではないかという疑惑はかつて少年時代にコンブレーでヴァントゥイユ嬢の部屋を覗き見たときの光景に拠っているのかも知れない。「花咲く乙女たち」にはシャルリュス男爵が象徴する男性の同性愛(ソドム)とともに女性の同性愛(ゴモラ)の主題が、アルベルチーヌとともに浮上してくる。(「花咲く乙女たちのかげに」1を含む)
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