認知心理学者 教育評価を語る

若き認知心理学者の会(著者)

• 販売会社／発売会社: 北大路書房/
• 発売年月日: 1996/10/10
• JAN: 9784762820649

商品レビュー

2015/02/02

著者20人の内の多くが、教育評価を専門としない人たちが、心理学系の自分の分野から語ったものであり、かつ、2015年現在からは20年前の本であるため、参考になる個所は少なく、つまらないものも数少なくなかった。それでも、参考になったのは次である。

市川伸一「批判的思考力の育成と評価」
p66
国語、社会、数学のどれも批判的思考を育てていないという指摘とその説明がおもしろい。
p68
論文を査読者として批判的にコメントする、新聞や雑誌の記事を編集者として論説するという文脈がおもしろい。
p70
ディスカッションやディベートは、事前準備とリフレクションが大切。

鹿毛雅治 「考えることの評価と教育実践」
p92
著者の1993の研究では、到達度評価と点数評価、自己評価と教師評価という条件の違いにおける思考過程重視の度合いと失敗を柔軟に考える度合いの違いを見た研究は、一読すべきだと思う。到達度-自己評価は考えようとする態度を育成する可能性があるとの結果だ。
p94
ー考えるとは、問いを生み出し解決する過程を指す。
ー考える場を作ること、または、考えることを育てることとは、教師が問いをしかけることで、学習者自身が自分の問いを持つこと。
p96
ー思考力を育てる評価とは、教員による問いのしかけるとともに、学習者と問いを作り、次第に学習者が自分で問いを作るようになる過程の中に組み込まれたものであるべき。

豊田秀樹 「学習意欲の評価 」
p147
ー評価は、第一に公正でなければならない。第二に、「正しく」なければならない。すなわち、第一にお金やコネで変わってはいけないし、第二に、信頼性や妥当性が確保される必要がある。
ーじゃんけんで入学者を決めるのは公正ではあるが、毎回合格者が変わるので、信頼性はない、という説明はおもしろい。
p149
ー安定しなければ、適切な評価はできない。信頼性と妥当性は並列ではなく、信頼性は妥当性の前提。

守屋淳 「意欲を評価するということ」

p176-177 意欲は関係的である
意欲は、「子どもー教材(学習内容)ー教師」という三者の関わりの中で起きること。意欲が低いと思われる子どもがいた時、その子にとって教材になじめない、または、自分のその児童への対し方が疎外しているという可能性もあることを考えるべき。

p179-180
「つまり「意欲を評価される」ことで、高く評価されようと、低く評価されようと子どもたちは評価する教師に意識的にも無意識的にも自分を合わせてしまう。」
ー子どもは、自分のやりたいことではなく、他者の無意識的意図を読み取る。

p181
意欲がまったく起きないということすら、その子の実存(世界のなかにあるかけがえのない自己のあり方)にとって必要な時期として、受け入れ待たなければならないのである。

真島真理 「評価活動が学習意欲に及ぼす影響」
p190
ー欧米では外発的動機づけとされる、重要な他者からの評価が内発的性質をもつとされる日本。これは、長期的にも同じなのか？
ー「いい子だからーしなさい」という「いい子アイデンティティ方略」

戸田有一 「評価することのコワサと自己形成」

p197
評価をするということは、何らかの価値観を開示するという行為でもある。当然それは、評価の対象となりうる。

p202
筆者はかつて、自分の講義に対する評価を、無記名で内容と方法について自由に書いてもらったことがある。…いただいたアドバイスは、主に講義方法に関するものであったが、いちいちなるほどと思った。もう少し早く聞けばよかった。そうすれば、その点を改善し、改善されたかどうかを評価してもらい、講義出席者に形成的評価というものの一端を、評価する側から経験してもらえたのにと思っている。

森敏昭 「学校文化の中での自己形成と評価」
p232
状況的学習論の三つのポイント
1)直接教えることはなく、摸倣。
2)学習は、一人前になる自己形成過程。
3)学習者と教育者の区別はなく、新参者も古参者もいる。学習過程は、共同体の再生産になっている。

以上