商品詳細
内容紹介 | 内容:エイブル、ベ-カ-、チャ-リ-、ドッグ.甘いささやき.私たちは宇宙のテレビに出ている.母の軽い息づかい.ほかの女たち.マッカ-サ-坊や.カリフォルニアの建築.フォ-ルンティンバ-ズの戦い.雪の天使.犬の天国 |
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販売会社/発売会社 | 草思社/ |
発売年月日 | 1995/03/28 |
JAN | 9784794205971 |
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甘いささやき
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甘いささやき
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『職業柄とはいえ、マイク・クック保安官は異常に背の高い人だった。フットボールのラインバッカーのように高く、ジャックと豆の木くらい高く、その高さの程度は帰宅を望む私の気持ちと同じくらいだった。この保安官を、帽子の黒いシルエットを、そして彼の頭のまわりにスノーフィッシュを投げつけてい...
『職業柄とはいえ、マイク・クック保安官は異常に背の高い人だった。フットボールのラインバッカーのように高く、ジャックと豆の木くらい高く、その高さの程度は帰宅を望む私の気持ちと同じくらいだった。この保安官を、帽子の黒いシルエットを、そして彼の頭のまわりにスノーフィッシュを投げつけているパトカーの狂ったようなトップライトを見上げているうちに、私は母国語との接触を失った。彼は両手を腰に当ててこちらの弁明を待った』―『私たちは宇宙のテレビに出ている』 「Monkey Vol.32」で岸本さんが訳出している作家だというので期待して読む。ふんふん、なるほど。確かに少し変わった、だが岸本佐知子が翻訳しそうな短篇が並んでいる。本書の翻訳者によるあとがきによれば著者であるステファニー・ヴォーンはオー・ヘンリー賞を二度受賞した作家だが、極端な寡作で、これまでに出版されたのは本書一冊のみという。そう翻訳者が語っているのは1995年だが、今(2024年)作家名を検索しても原書も翻訳書もこの一冊しか出てこない。掲載されているレビューを見る限りその才能は絶賛され、コーネル大学でクリエイティブ・ライティングを永年教えているというのに。 本書に収められている短篇は、主に作家の幼少期の思い出をなぞるような内容のものと、母ないしは自身が経験したと思われる女性としての苦悩(敢えて、ありふれた、という形容詞を付加してみたくなるけれど)を描いたものに分けられる。但し、どちらにも共通するのは、痛みの中心にあるものには直接言及せずに、その周りをくるくると回りながら、その痛みの作用するものを何てことのない風景に溶け込ませるように描いているということ。よく「Midlife Crisis」なんて言うけれど、そういう自己肯定感の喪失による落ち込みは何も中年の特権ではないということを感じさせるような作品だと言ったら変な感想となるのだろうけれど、この本を読んでいる時に絶えず「アメリカン・ビューティー」のアネット・ベニングがフラッシュバックしていたのは、そんな物語の雰囲気が似ているからなのかも知れない。とにかく、人の痛みの本質なんて炙り出したところでどうにもならないものなんだよね、という作者の声が聞こえてきそうな作品が並んでいる。因みに、岸本さんが「Monkey」に新たに訳出した作品も本書には収められていて、巻末を飾る「犬の天国」という、作家自身が投影されたらしき少女ジェマが主人公の物語。陳腐な言い方になるけれど、このジェマが主人公の連作から想起されるイメージはどうしてもセピア色になる。それも総天然色から少しずつ色が褪せてゆくような印象。おっと、そんな言い回しも今や死語に近い比喩表現だね。 『「このチキン、どんなふうに見えると思う?」と祖母が言った。「去年死んだみたい」 母はその鍋をのぞいて見たが、なにも言わなかった』―『エイブル、ベーカー、チャーリー、ドッグ』 冒頭に置かれた短篇「エイブル、ベーカー、チャーリー、ドッグ」は、無線通信用音声アルファベットが題名の作品だが、今では「アルファー、ブラボー、チャーリー、デルタ」に取って代わられたもの。聞いたところでは航空業界では今でも使われているようだけれど、米国陸軍(度々登場するジェマの父親は元陸軍士官)での使用は1943年から1955年まで。そんな経緯については一切触れられていないけれど、幼い頃に覚えさせられたというその音声コード(phonetic alphabet)が呼び起こす郷愁は一種独特のものとなっていると誰しもが感じることだろう。敢えて言葉にしてはいないけれど、父親の被った悲哀なども含めて様々な思いが、使われることのなくなったコードを繰り返し口ずさむことで奏でられる。そんなことを考えていたら、入社仕立ての頃は「アメリカ、ブラジル、カナダ、デンマーク」なんてのを一生懸命覚えたなあ、ということを思い出した。これは銀行業界の標準だったらしいが、電話越しにスペリングを確認する際に、よく「D for Denmark」とかやったなあ。メールで遣り取りするのが普通になってしまった昨今では、それもまた死語みたいな話だけれども。 それにしても、この一冊しか出版物がないとは、何とも残念。
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