坂本九ものがたり 六・八・九の九 中公文庫

永六輔(著者)

• 販売会社／発売会社: 中央公論社
• 発売年月日: 1990/04/10
• JAN: 9784122017016

商品レビュー

2015/05/17

私くらいがちょうど、坂本九の現役を知っている最後の世代なのではないかしら。
北海道では九ちゃん司会のローカル番組が、日曜の朝９時という結構良い時間に放送されていたので、特にそう思うのかもしれません。

ローカル番組といってもお笑いのバラエティ番組などではなく、地域に根差した福祉番組だったものですから、余計に九ちゃんのイメージが固定されてしまいました。
笑顔の穏やかな、やさしいいい人。

九ちゃんは歌手でした。
それも世界的な大ヒット曲「上を向いて歩こう」を歌った。
永六輔・作詞。中村八大・作曲。坂本九・歌。
この三人でヒット曲を量産した時代が確かにあったのだそうです。

当時のことを永六輔が本にしました。この本です。
六・八・九としての九ちゃんの話です。
だから六輔さん、八大さんの物語でもあるのです。

結論から言うと、この本は六輔さんではない人が書くべきだったのではないかと思います。

性格もあるのでしょうが、年齢的にも、六輔さんは九ちゃんにとって口うるさい先輩だったようです。煙たい相手。
六輔さんの書きぶりは、時にかなり辛辣だったりしますし、思わせぶりが過ぎて、どういうことなのかさっぱりわからない部分も多くあります。

それに対して八大さんについては手放しで尊敬しているようですし、自分のことは謙遜して書いています。
謙遜を装っていながら自慢しているように読めるところもあります。

つまり、３人に対する立ち位置がそれぞれに違うのです。
一番九ちゃんのことを知っていたのかもしれない。
でもそれよりも、３人との距離を均等に書ける人が取材して書いた方がよかったのではないかなあ。六・八・九の物語を描くのなら。

とはいえ、やんちゃでいたずらっ子で酒豪で芸者遊びも粋にできる、そんな九ちゃんの姿を容赦なく書けたのは、やっぱり六輔さんだからなのでしょうけども。

誰からも嫌われたくない。
それを極めた九ちゃんの姿勢を、六輔さんはもどかしく思っていたようですが、アイドルからスターになった九ちゃんが芸能界を生き残るには、それしかしようがなかったことと思います。

どうしても芸能人になりたかった高校生の頃。
大学に行ってくれと強く願う親を説得したのが、高校の校長先生。
「休学の扱いにするから、やるだけやってみろ。出来なきゃ帰って来い。
個人の能力を引っぱりだすのが教師の仕事だ。九には歌手の能力があるかもしれない」

頭角を現すには才能だけではなく、それを理解してくれる周囲の人というか、チャンスを与えてくれる人がやはり必要なんだなあ。
もちろんそれを生かせる才能あってのことだけれど。