キーウで見たロシア・ウクライナ戦争 の商品レビュー
出先の書店で見掛けて入手し、ゆっくりと読了に至った。或いは「こういうような内容が待たれていた」と思わせた。編集者から投げ掛けられる「こういうことに関心が寄せられていると見受けられる」という問いに答えるというような体裁の短いエッセイを折り重ね、全般的内容の前後に著者御自身のエッセイ...
出先の書店で見掛けて入手し、ゆっくりと読了に至った。或いは「こういうような内容が待たれていた」と思わせた。編集者から投げ掛けられる「こういうことに関心が寄せられていると見受けられる」という問いに答えるというような体裁の短いエッセイを折り重ね、全般的内容の前後に著者御自身のエッセイを加えるという体裁になっている。短い纏まりを順次読む感じで、読み進め易いと思う。そしてその読み進め易い内容は、より多くの方が触れてみる価値の在る内容であるとも観る。 著者はウクライナ国内に在って、通信社の仕事に携わっている。ウクライナの通信社は各国に向けた情報発信を行っているのだが、その中の日本向けの発信に携わっているという著者である。基本的に通信社の本社が在るキーウで仕事をしているので「キーウで見た」と題名に在る。2022年2月の戦争という情勢の少し後、キーウが危険と見受けられたということで、西部のリヴィウに少し写っていた時期も在ったという。その他、現在の仕事の以前からウクライナに在って、各地を訪ねてその様子も承知しているという著者だ。 本書の中にも言及は在るが、ウクライナでは、実は2014年頃から国内で軍事行動のようなことが繰り返され、「戦争」といういような様子は続いていた。2022年2月以降は、それが「全面的戦争」という様相になり、「全面戦争」、「大戦争」というような言い方になっているという。他の本で、2014年頃からの状況を「第1次ロシア・ウクライナ戦争」と呼び、2022年以降の状況を「第2次ロシア・ウクライナ戦争」と呼ぶような感と論じられていたのに触れたことが在った。現地でもそれに近い感じになっている訳だ。 如何いう仕事に携わっていようと、部外者にとっては少し特殊に見える面は在ろうが、結局は何処の国や地域でも、大統領や閣僚というようなかなり特殊な立場、圧倒的な知名度を誇る著名人というのでもなければ「市井の普通の人」である。著者は通信社の仕事をしていて、部外者にとっては少し特殊に見える面は在る。が、著者もまた縁在って携わるようになった仕事に取組んでいる「市井の普通の人」という以上でも以下でもない。そういう人が見詰め続けている「現今の情勢」が、或る程度判り易く纏まっているというような発信は、ここまで余り例が無かったように思う。そういう意味で本書は貴重だ。 もう直ぐ3年になろうというウクライナの現下のの様子だが、「現地の市井の普通の人の目線」での見聞は然程伝わるのでもない。こういうことは、何もウクライナの現下の様子に限ったことでもないとは思う。が、「酷い羽目に陥っている人達が何とかなるように」と願う中では、そういう様子が酷く気になるのだ。本書でそれに触れることが叶ったと思う。 ウクライナの人々に関して、「〇〇系」というような分け方をしようとする例が見受けられるようだが、著者はそれに少し疑義を覚えるようだ。ウクライナに在っては、その版図に在る、または帰属している意識を持っている、少し言葉を換えると「同胞」という意識が在る、他社がそういうように認める人が「ウクライナ人」で、「〇〇系」という民族的出自というような何かが然程重要でもないかもしれないという観方を示している。こういう事柄は、ウクライナが「文化や民族のモザイク」という版図が急に「独立国」となり、そこに在った人達が時間を経て帰属意識を育んだ、または強めたというような経過を想起させる。 本書の中、侵攻を仕掛けた側は軍を退けば直ぐに停戦だが、侵攻を受けた側は攻撃を凌いで動きを停めようと抵抗するので簡単に停戦に出来ないという話題が在った。こういう側面は大きいと確かに思う。 「戦時」という状況の中に陥った人達の様子を、可能な限り詳しく伝え、「忘れずに居る」ということの一助になろうというのが著者の意図であるようだ。これが大切なのだと思う。紛争当事者の一方を非難して如何なるのでもない。戦禍の中を複雑な想いで生きる人達を思いやる、人生の可能性を何とか拓こうと色々な動きをする人達の手助けをするというようなことが、とりあえず大切だと自身は考えている。 なかなかに価値が高い、「現地の市井の普通の人の目線」での見聞、加えて「縁在って現地に居て活動する“外国人”の視点」での記録である。著者の場合、“外国人”では在るが、交流が在る人達にとって「同胞」となっているようではある。「戦禍」と聞いて思う程度に危険が高いということではない面は在るが、或る日の朝に妙なモノが飛んで来て、著者は危険な目に遭ってしまうかもしれない。そういう危険が及ばないことを願うばかりだ。そして本書の様な事柄も含め、種々の発信を続けて頂きたいものだ。
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