音のない理髪店 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
言葉でしか伝えられないことがある。でも言葉では伝えられないものもある。これは、どうやっったって言葉という形にはならないものをあえて言葉で伝えようともがく一人の女性の物語だ。 耳が聴こえない世界。音のない世界。そのなかで生きている人たち。彼らが使う手話という言葉。テレビであるいは街中で見かける手話での会話。音のない会話であるはずなのに、それがとても賑やかだと感じたことはないだろうか。彼らはその手の動きだけではなく、表情や身体全部から言葉を発している。そこにあるのは「伝えたい」という気持ちそのもの。手話自体は割と身近なものかもしれない。けれどその「手話」が世界共通ではない、もっと言えば日本国内でも共通の言語ではないことは意外と知られていない。地域によって、年代によって微妙に違いがある。そして耳の聴こえない人が通う学校で必ずしもその手話を習うわけではなかったということもあまり知られてはいない。その理由をこの小説で知って、日本という国での「障害者」に対する姿勢を目の当たりにして、自分のその認識の浅さに震える思いがした。健常者と障害者。それはくっきりと分かれている世界なのか。 視覚障害は人と物の間を隔てる障害で、聴覚障害は人と人を隔てる障害だという。生まれたときから聞こえない人と、途中で聞こえなくなった人、そして聞こえる人。その間にある溝を越えることはできるのだろうか。そもそもその溝とはいったいなんなんだろうか。 コーダ(チルドレンオブデフアダルト)の父を持つ作家五森つばめが、日本ではじめてのろう理容師の1人である祖父のことを小説に書こうと奮闘する姿。それは自分自身を、自分の存在自体をバラバラに解体し、そして一から組み立てる作業でもあった。 耳の聴こえない祖父母を持つ私。もし歯車が1つずれていたら存在しなかったかもしれない私。それを小説に描こうとする私。自分の心の奥深くまでもぐりこんで自分を見つめる作業は、とてつもなく苦しい。見たくないものを見る、知りたくないことを知る。そういう作業の上に、「私たちのことを知って欲しい、誰かに伝えて欲しい」という人たちの声を積み重ねていく。 つばめの祖父について語る人たちの物語の中に心を打たれるエピソードがたくさんある。そのひとつひとつを丁寧に受け取って欲しい。現実から目をそらさずに。 今を生きる私たちは、言葉にできない思いの、その向こう側から未来を照らす光を背に、歩いていかなければいけないのだから。
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SNSで見かけ、気になっていました。 ろう者が昔、色々苦労した様子がリアリティーをもって伝わってきます。なかなか面白い構成で、ふと、昔読んだ、『永遠のゼロ』的な展開を思い出しました。手話に全く触れていない方でも楽しめるし、むしろそういう方に手に取っていただきたい。 ・・主人公の書...
SNSで見かけ、気になっていました。 ろう者が昔、色々苦労した様子がリアリティーをもって伝わってきます。なかなか面白い構成で、ふと、昔読んだ、『永遠のゼロ』的な展開を思い出しました。手話に全く触れていない方でも楽しめるし、むしろそういう方に手に取っていただきたい。 ・・主人公の書いた小説を読んでみたいな。
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※このレビューにはネタバレを含みます
若手女性作家が、小説を書くために、自身の祖父とその家族の歴史を紐解き、取材を重ねていく過程を追ったお話。 印象的なのは、主人公のつばめが「これは私が書いて良いものなのか」と度々悩むところ。 「小説とは、身を削って書くものである」というのは耳にしたことがあるが、つばめの心境の移り変わりを読むにつけ、とんでもない覚悟がいることなのだと感じた。 特に今回の題材は、自分の家族の歴史を公にすることに繋がる。また、慎重に書かなければ、聾者本人やその家族、関係者たちの気持ちを傷つける可能性もある。 それでも「私が書くべきことがある」と覚悟を持って執筆にあたったつばめの信念が、「後世につなぐべきことがある」という覚悟を持っていた祖父の気持ちと通じ合った瞬間、鳥肌がたった。 たった一人の聾者の理髪師が、逆境の中でも真面目に取り組んできたことが、何世代にも渡ってつながっていく。 短い人生の中でも、残せるものはある。 そして、それはたった一人で成し遂げられることではなく、周りの人の色んなサポートのもと、つなげられるものだということ。 自分が今やっていることの意味を見失ってしまった時に読み返したい、勇気をもらえるお話だった。
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著者自身の聾者祖父の事に近づく物語として書いたとあり。この物語とリンクするんだなぁと思いました。あと聾者を扱ったコーダの作品として丸山茂樹さんの大好きなデフボイスシリーズを思い浮かべました。聾者が初めて理髪店を営むには想像を絶する苦労があった事をしみじみ感じました。つばめと青馬の...
著者自身の聾者祖父の事に近づく物語として書いたとあり。この物語とリンクするんだなぁと思いました。あと聾者を扱ったコーダの作品として丸山茂樹さんの大好きなデフボイスシリーズを思い浮かべました。聾者が初めて理髪店を営むには想像を絶する苦労があった事をしみじみ感じました。つばめと青馬の関係性にも心うたれました。あなたも読んで感動の嵐を感じて下さい。
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