崩壊する日本の公教育 の商品レビュー
日本の教育現場を取り巻く息苦しさの正体が何かを様々な実例をもとに突き止めるとともに、これからの展望についての「光」を指し示してくれる一冊。 この書籍では、2016年に出版された同氏の著書「崩壊するアメリカの公教育」の8年後である日本の教育現場のいまが描かれている。 各章のタイ...
日本の教育現場を取り巻く息苦しさの正体が何かを様々な実例をもとに突き止めるとともに、これからの展望についての「光」を指し示してくれる一冊。 この書籍では、2016年に出版された同氏の著書「崩壊するアメリカの公教育」の8年後である日本の教育現場のいまが描かれている。 各章のタイトルは「『お客様を教育しなければならない』というジレンマ」や「人が人でなくなっていく教育現場」、「新自由主義時代の『富国強兵』教育と公教育の市場化」といった、読者をドキリとさせるものが多い。しかし、感情的ではなく教育研究者としての視点から、冷静に、実例を交えながら論を展開していく。 学習指導要領の転換や全国学力テストなどから見える「成果・結果主義」、教員の働き方改革の「本質的な議論の欠如」、部活動の地域移行という名のもとに進む「民営化・サービス化」、教育委員長の廃止。これらは新自由主義的な価値観に基づいた政府の介入によるものだと指摘している。 合わせて、教員たちの置かれた現状や、彼らが抱く切実な想いについても豊富に述べられている。 鈴木氏は、教育に関係する「点」としてのトピックスや出来事を、様々な研究や実例といった「補助線」を引くことによりその関係性を明らかにし、教育現場を取り巻く「全体像」を示している。そのためか、専門的な記述や情報が多いのにも関わらずとても読み進めやすい。 花火大会や旅客機で感じた「格差」、中学校教員時代に経験したこと、住んでいたニューヨークでの子育て経験、中学生のいじめによる凍死事件、大阪市教育行政への提言、奈良教育大学附属小学校「不適切」事件など。 教育研究者としての幅広く豊富な知識と、自らが感じ考えてきた視点、先人の紡いできた言葉、恩師をはじめとした多くの「教育者」とのかかわりから学んだこと、そしてこどもたちと現場で直接触れ合う中で経験してきたこと。 これらの「点」や「補助線」が教師のみならず、かつて学校に通う生徒であった読者1人ひとりに「自分ごと」として投げかけてくる。 しかし、本書は読者を絶望させる一冊ではない。むしろ希望の一冊だ。 心を打たれるのは、鈴木氏が本書を通じて語り続ける「学校のありかた」「教師というしごとの本質」である。 教師が、こどもたちと優劣のかなたで直接かかわり、彼らの生きる力を存分に育むことができる。 こどもたちが、教師の愛情と信頼のもとで、学ぶことや生きることそのものに喜びを感じ、精一杯に命を輝かせながら「わたし」を育んでいく。 こんな学校現場、そして社会になったら。こどもたちは、そして教員たちはどれほど幸せだろうか。 そして本書の終盤、鈴木は「社会のシステムを支えているのは「わたし」たちだ。私自身がその中の一人であると気づくことで、何かが動き始める。」と述べる。単に教育を取り巻く状況を嘆き憂うのでも、無力感に打ちひしがれるのでもなく、1人ひとりがまず知ること。そこから始まると。鈴木氏の言葉が、力強く、そしてあたたかく後押ししてくれる。 教師だけでなく、親も含むすべての「こども」に関わる人に読んで欲しい一冊である。
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