1,800円以上の注文で送料無料

愛と欲望のナチズム の商品レビュー

5

1件のお客様レビュー

  1. 5つ

    1

  2. 4つ

    0

  3. 3つ

    0

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2024/10/12

作家の菅野完氏はよく彼のYoutube番組で日本の右派は他人の生殖に口を出すことしかしていない(少し上品な表現にした)と語っているが、本書の前半ではナチスドイツの研究者である田野大輔氏によりナチスドイツのナチ党による他人の生殖について口を出すことについて語られている。本書を読むこ...

作家の菅野完氏はよく彼のYoutube番組で日本の右派は他人の生殖に口を出すことしかしていない(少し上品な表現にした)と語っているが、本書の前半ではナチスドイツの研究者である田野大輔氏によりナチスドイツのナチ党による他人の生殖について口を出すことについて語られている。本書を読むことでドイツと日本、戦前・大戦中と戦後80年近いという違いがあるものの、国家主義者がどんな考え方や意図を持ってどのように他人の生殖、性生活に口を挟むのかが良くわかると思うし、大戦時のナチスが言っていることと、現代の我が国の日本会議を始めとする宗教右派が言っている事は非常に似通っている事がわかると思う。共通するのは極めて頑迷な家父長制的な男性中心主義に基づき、女性を労働力・兵力としての人間の生産手段としか見なさない考え方であり、また、国家による生殖の管理を主張する点にも違いがない。本書の中にも当時のナチスドイツ政府による官制婚活パーティーが出てくるが、今の日本で行われている行政主催の婚活パーティーや官制出会い系サイトなど全く同じである。ナチスドイツに違いがあるとすれば、婚外子に関しても国の子宝として認めていたぐらいであり、ナチスの方が日本の宗教右派より寛容である(皮肉です)。国家主義とは他人の生殖に干渉したい欲望だと言っても良いぐらいである。 本書の後半は戦争と性の問題である。我が国では「従軍慰安婦」問題とされている戦地での官制売春宿の問題であるが、ドイツでも無縁ではなく、多くの占領地で(ドイツの場合には軍と親衛隊・警察により)官制売春宿が設営され、占領地の女性達が「雇用」された。ここでの雇用ではどの程度自発的なのか強制性があったのかはドイツでもはっきり全体がわかっていないようだが、かなり強制性があったのは疑いがない。もっとも兵士の性欲処理の問題はどの時代の国家においても共通した問題ではあり、それは我が国であれば在日米軍兵士による性犯罪など現代にまで続いている問題である。 ということで、雑にまとめてしまうが、性生活や生殖という切り口でも国家主義の害悪が良くわかる良書であった。

Posted byブクログ