可及的に、すみやかに の商品レビュー
「掌中」 かつて友達だった人の子どもは結婚し、孫までいる人もいる中、自分の子どもは引きこもりで、これと言った楽しみもない。そんな中、スリルを求め万引きに走ってしまう女性が描かれていた。自分の大切に育てて来た息子が世間から見たら「失敗作」のようで、それが受け入れられなくて、どうした...
「掌中」 かつて友達だった人の子どもは結婚し、孫までいる人もいる中、自分の子どもは引きこもりで、これと言った楽しみもない。そんな中、スリルを求め万引きに走ってしまう女性が描かれていた。自分の大切に育てて来た息子が世間から見たら「失敗作」のようで、それが受け入れられなくて、どうしたら良いか分からない。親が1番乗り越えるのが難しいことそれは、子どもが自分たちの思い通りにならなかったことだと聞いたことがあるが、それが引きこもりとなると、四隅が塞がった感じがし、救いようのない印象を受ける。あの時、ああしていれば、こうしていれば、過去の楽しく、輝かしい記憶が邪魔をし、それが現在との対比で苦しくなる原因にもなる。過去に固執するなというけれど、過去の思い出が現在を作っているのも事実で、かつての息子の影を探すことが、自分たちが育てた息子は存在しているという、生存確認のようなものになっていたのかもしれない。節さんが、幸子が自分の家に入り、物を盗んでいくことに早々から気づき、ボケた振りをしていたとしか考えられなくなった。 「可及的に、すみやかに」 かつての旦那が、自分の1番親しい友達と付き合っているという複雑な状況の中、母親とも上手くいかず、息子を1人で育てることに苦労し、仕事もない。自分が描いていた理想とは程遠く、宝物は息子だけ。というような詩織の小さく萎んだ心が写っていた。息子が大きくなるに連れ、自分の知らないことまで知っていく、そして、学校で明かされる息子の真の性格。息子まで自分の知らないところまで行ってしまったような感じがしたのかもしれない。実家で子どもを育てるなんて、親に協力してもらえ、手間が省けると思ったが、それは親と関係が上手く行っていないとしんどいものであり、ストレスも溜まる。猫の事件は母親にイライラしたし、母親の機嫌を伺う父親にもイライラした。自分の唯一の味方であった旦那が、せっかく会える機会でも、紗希を優先し、自分に見せなかった笑顔を見せている。そこには、私が愛していたかつての旦那はおらず、まるで自分と息子が最初からいなかったような印象を受けたと思う。息子の行動を愛おしく思いながらも疲れ、自分より旦那の家族と上手くいっている紗希に嫉妬し、悲しくなる。涙を流していることさえ気づかず、唯一気づいてくれたのは息子だけだった。という事実がとても悲しい。親から見た子、子どもから見た親、どちらの視点からも描かれていて、子育ての大変さ、旦那と上手くいかなくなったときの絶望感、1人親の大変さ、親との関係。どうしようもないけれど、息子を育てていくしかないという希望もあるが、捨てることのできない使命感に狩られ、日々を闘っているような詩織にエールを送りたくなった。大丈夫。あなたは上手くやっているよ。そんな言葉をかけてもらいたいという人は大勢いるのではないだろうか。必ず、頑張りを見ている人がいる。そう信じていないと、何の原動力もないし、頑張る気力も湧かなくなる。誰か1人でも味方がいれば、頼れる人がいれば。私にはそんな人がいるだろうか。私は、法律上では大人だが、私はまだモラトリアム人間で大人になり切れていない。大人になるということは、ある程度のことは許す。自分のことを後回しにできる人間なのかなとも思った。子どもが生まれると子どもが宝物で優先すべきもので、自分の感情なんてどこかに置いてきぼりにされるのだろう。でも、気づいたらバロメーターはゼロになって、なんならマイナスになっていて…。 誰かに伝えたい。あなたは大丈夫。上手くやっているよ。
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「掌中」「可及的に、すみやかに」二話収録。 以前読んだ『エラー』『あくてえ』で強烈なインパクトを残してくれた山下紘加さん。 今回も読ませる。 表題作もいいが一話目の「掌中」が凄い。 主人公は引きこもりの息子を持つ主婦の幸子。 魔が差したなんて言葉では形容出来ない程、万引きに...
「掌中」「可及的に、すみやかに」二話収録。 以前読んだ『エラー』『あくてえ』で強烈なインパクトを残してくれた山下紘加さん。 今回も読ませる。 表題作もいいが一話目の「掌中」が凄い。 主人公は引きこもりの息子を持つ主婦の幸子。 魔が差したなんて言葉では形容出来ない程、万引きに溺れていく姿に恐怖すら覚える。 人生に絶対はなく、自分が理想とする未来と現実とのギャップに苦しむ人は数限りなくいるだろう。 こんなはずじゃなかった…、彼女の心で荒れ狂う感情の波が伝染して来て胸が苦しい。 掌中に収めたかったのはきっと別の物だったはずだ。
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★掌中 これはやばいですね。警察密着24時の万引きGメンとか見てるような面白さ。こうやって、ハマっていく。というより万引きが徐々に日常になっていく様が怖くて、地獄のようだったわ。息子が迎えに来てくれたのもまたツライし、最後の終わりの方の絶望感たらない。そして、タイトルも最高。 ...
★掌中 これはやばいですね。警察密着24時の万引きGメンとか見てるような面白さ。こうやって、ハマっていく。というより万引きが徐々に日常になっていく様が怖くて、地獄のようだったわ。息子が迎えに来てくれたのもまたツライし、最後の終わりの方の絶望感たらない。そして、タイトルも最高。 ★可及的に、すみやかに 「こんどさ、しーちゃんさえよければ、またみんなでご飯でも行かない?前みたいに」じゃないよ(*_*)親友の元旦那と付き合って、親友とも普通でいられるのってどういうことなの?怖いよ。そして、詩織のお母さんの絡み具合もまた面倒くさい。実家戻りたくない。 2024.10.6 読了
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前作、煩悩でかなり食らった私。すっかり作者山下紘加さんに魅せられて、さぁ今作と期待値大。前情報は何もないまま、読み始める。今回は連作短編が2作か。前作とは打って変わって雰囲気違うぞ。 しかし、そこは流石の山下氏、しっかりした文章で読ませてくれます。また会話の端々にリアリティを感じ...
前作、煩悩でかなり食らった私。すっかり作者山下紘加さんに魅せられて、さぁ今作と期待値大。前情報は何もないまま、読み始める。今回は連作短編が2作か。前作とは打って変わって雰囲気違うぞ。 しかし、そこは流石の山下氏、しっかりした文章で読ませてくれます。また会話の端々にリアリティを感じさせ、現代の純文学作家を読んでいる時間を享受しました。
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