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ウクライナ全史(下) の商品レビュー

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2024/08/14

「全史」と銘打った、ウクライナの歴史に纏わる本で、「上巻」の続きとなる「下巻」である。 「ウクライナの歴史」を古い時代から説き起こし、この上巻では20世紀初め頃に至る迄が綴られた「上巻」に対し、この「下巻」はそれ以降なので、扱われている期間は短い。しかしながら、本のボリュームは上...

「全史」と銘打った、ウクライナの歴史に纏わる本で、「上巻」の続きとなる「下巻」である。 「ウクライナの歴史」を古い時代から説き起こし、この上巻では20世紀初め頃に至る迄が綴られた「上巻」に対し、この「下巻」はそれ以降なので、扱われている期間は短い。しかしながら、本のボリュームは上下共に似たような分量になっている。 「下巻」については、20世紀初め頃の革命や内戦という様相から、戦間期や第2次大戦の頃、その後の様々なこと、更に「ウクライナ」の独立、最近の情勢と、非常に密度が濃い感じに纏まっている。概ね2020年頃迄の事柄が綴られる。 「下巻」の末尾には、「上巻」の部分も含めて、ウクライナの歴史に纏わる人名録、主な出来事の年表、加えて参考文献リストが添えられてはいる。が、そういうモノを頻繁に参照するような煩わしい読み方は無用だ。物語風で読み易くなっているとも思う。ウクライナで学位を得て研究教育活動に従事し、現在は米国で活動している「ウクライナ史」研究者が、「ウクライナについていろいろなことを広く知らせたい」という強い思いも込めて綴ったのだと想像する。 20世紀に入って以降も、「ウクライナ」は幾つかの国々に分かれていて、第2次大戦やその後の経過で概ね現在の版図で「ソ連の中の共和国」となり、1950年代に経済上の理由でクリミアがロシア連邦からウクライナに移管ということで現在の版図が確定している。そして1991年にその版図で「独立国」となって行くのだ。 「ソ連の歴史」というような観点、または「欧州に於ける第2次大戦期の経過」というようなことで、ウクライナの事柄には少しは触れているが、本書のように詳しく説かれている、同時に読み易いモノは類例を知らない。読み応えが在る。 そして「ウクライナの社会」の変遷というようなことも、広く深く語られていると思う。ソ連体制になってから第2次大戦へ向かって行く間の「人為的な飢饉」と呼ばれるような件も含めて経済への言及も幅広い。 ソ連時代の様々な経過の後の、「独立」への経過も詳しい。多様な要素を内包する欧州の国であろうとした訳だ。 やがて初代大統領が去らざるを得なくなった後の、政権の変遷や出来事に関しても詳しく、同時に判り易く纏まっている。 総じて「下巻」は「ウクライナ現代史」という感で、場合によってはこの「下巻」を読むと現在に至る様々な事柄を網羅することも出来なくはない。と言っても、もと古い時期の諸事項との関連も在るので、「上巻」に在るようなことも知るべきではあるが。 そして本書が綴られている時点で「第1次ロシア・ウクライナ戦争」と呼ぶべき状況に入ってしまっているが、「ロシア側で唱えている事柄」に関連した「ウクライナ側の観方」というようなことが或る程度整理されている感だ。 複雑な生い立ちを負い、文化的なモザイクという情況でスタートした「ウクライナ」ということが、本書を読むとよく判る。現在となっては、個々人の文化的出自や母語が如何であれ、「とりあえず“ウクライナ国民”」という、多数派と見受けられるウクライナに住む人達のアイデンティティは動き難いのだと思う。そこに「歴史」として考えて「如何?」ということ迄持ち出して、軍事行動に迄及んでしまう理屈というのは何なのか?そういう「考える材料」を多く提供してくれる本書である。 本書が登場した後、彼の地では「第2次ロシア・ウクライナ戦争」と呼ぶべき状況に突入してしまい、既に3年目というようになってしまい、事態の収束が読めないようになっている。何を如何言おうと、大規模な軍事行動というような動きは、生命を擦り減らし、社会の中の余りにも多くのモノを損なうばかりである。何とかならないものかと祈るばかりではあるが、それはそれとして「如何いう経過で最近の様子なのか、古い時代に遡って知ってみよう」という程度のことは出来る筈だ。そして本書はそういう「知ってみよう」に好適だと思う。 偶々眼に留めて入手し、紐解き始めた本書であるが出会えて善かった。モノも知らずに声が大きそうな方に与して、何やら大きな声を出してみれば好い訳でもないと思う。静観して、本を読んで学ぶというようなことも必要なのだと思う。ロシアとウクライナとの問題に関し、ウクライナの側に纏わる様々な情報が詰まった本書は必読かもしれない。殊に「ウクライナ現代史」という様相の「下巻」は価値が高いと観る。御薦めだ。

Posted byブクログ