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京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る の商品レビュー

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2024/09/23

長いタイトル、本文も350頁あまりでそこそこ長い。 パンデミックのころを、京都を軸に描くという体の作品なのだが、一筋縄ではいかない。 第一部は著者自身の回想や実在の人物との交流で始まる。が、発想はあちらに飛び、こちらに飛び、パースペクティヴ的である。八艘飛びを繰り返しながら、「あ...

長いタイトル、本文も350頁あまりでそこそこ長い。 パンデミックのころを、京都を軸に描くという体の作品なのだが、一筋縄ではいかない。 第一部は著者自身の回想や実在の人物との交流で始まる。が、発想はあちらに飛び、こちらに飛び、パースペクティヴ的である。八艘飛びを繰り返しながら、「あの頃」が立体的に立ち上がっていく。同時に、空想の中から、三島由紀夫のフェイクである「二島」由紀夫や、冥界で閻魔の補佐をしていたという小野篁、そして源氏物語の著者である紫式部が召喚され、彼らが現代の京都を闊歩し、オペラを演じるのだ。 ・・・いや、何を言ってるのかわからないと思うが、だいたいそういうお話なのである。 こういうお話には身を任せてしまった方がよい。 三島が出てくるのはもちろん、金閣寺との絡みで、確かに京都的ではある。だが、彼を押しのけるように強烈にインパクトがあるのは、小野篁であり、紫式部である。 式部の墓は篁の隣にある。特に親戚関係でもない。生きていた時代も違う(式部は篁より200年ほど後の人)。実際に本人が葬られているのか、おそらく確証はないと思うのだが、こうなっている背景には1つの伝説がある。すなわち、式部が書いた源氏物語のせいで多くの人々が惑い、そのため、彼女は地獄に落とされた。それを篁がとりなした、というのである。 その彼らがなぜか、パンデミックの京都に蘇り、ラーメンを味わったり、ヨガを楽しんだり、京都各所を巡ったりするのだ。 ある種、観光ガイド、グルメガイド的な側面があるのも楽しい。土地勘のある人なら2割増しで楽しめるだろう。 そうして漂っているうちに、あー、パンデミックの頃ってこんな感じだったなー、何だか訳の分からない不安感が滞留してたっけ、と記憶がよみがえってくる。それは、魑魅魍魎が跋扈する、とした中世の発想とそれほどの違いはなかったのかもしれない。 小野篁が冥界で働いたという伝説も、紫式部が架空の物語を書いたために地獄に落とされたという伝説も、(当然と言えば当然だが)本人の死亡後にできたものである。当の本人はまさか後世、そんなことを言われるとは思っていなかったのではないか。それがさらに、生前にはまったく知らなかった人と結び付けられて伝説が語られる、そしてそのゆかりの遺跡が残るなど、夢にも思わなかったことだろう。 そんな歴史が積もっている痕跡が見えるのも、京都という土地ならではとは言えようか。 著者は朗読活動などもされているようだし、音楽にも造詣が深いようだ。「音」の感覚が優れている印象を受ける。 本作、朗読してもおもしろいのかもしれない。ちょっと長いけどね。 全編、狐につままれたようではあるが、リーダビリティは悪くない。 何だか訳の分からない物語に揺さぶられながら、パンデミックのあの時代って何だったのだろう、と考えてみるのも一興。

Posted byブクログ