キミは文学を知らない。 の商品レビュー
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数カ月前の新聞書評でみかけた本(尾崎世界観による評だった)。待たされたわけではなく、借り忘れてた。図書館で即借り出せたので読んでみた。 時代小説家山本兼一氏の奥様が書かれたものと知り興味を持っていた一冊。 直木賞受賞作『利休にたずねよ』も驚きを持って読んだ作品だったし、絶筆となった『とびきり屋見立て貼』も好きなシリーズだ。惜しくも亡くなられたことを、当時、悲しんだもの。 その奥様山本英子による追悼文的な作品だとしても、充分、満足だったのだが、どうしてどうして、極上のエッセイとして読み応えあり。 軽やかで上品な筆致に驚いたが、英子氏も作家さんだった。しかも、生前の兼一氏に師事し、小説家としてのイロハを学ぶクダリも出てくる。なるほど、納得。 序盤は、これから売り出そうとする作家を支える若き妻として、内助の功をいかんなく発揮する。 中盤は、己も児童書の作家を目指して、夫と同じ土俵に立とうとする気概を見せ、張り合う様も勇ましい。 そして、売れっ子作家となり絶頂期の最中の夭逝を経て、夫兼一を振り返る終盤は、ある意味達観して、作家山本兼一の業績と人生を俯瞰してみせる。 その視点が、同一人物でありながら、様々に移り変わるようで、実に面白い。 年の離れた、そして一歩先に大作家になった夫から、半ば、下に見られていたかのような若き日々だが(けっして、兼一氏は、人として伴侶を見下していたりはしていないが)、やがて、肩をならべ、目線の位置が変わっていくかのよう。 タイトルの「キミは文学を知らない」も、終盤、なんだ、知らないのは、山本兼一好みの文学に過ぎないと看破、 「キミはボクの好きな文学を知らない」 と言い換えておく様子は、痛快でさえある。 こんな爽やかな夫婦関係は羨まし過ぎる。
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