羅刹国通信 の商品レビュー
不思議な感覚で意識が曖昧、頭にモヤがかかった状態で読むとなんとなく理解できる。そして文豪作家より読みやすいと思ったら少女向けの小説も書いていた作家。羅刹国という夢の中の精神世界とでもいうのか、そこは砂漠で最終を探すため歩き続ける。留まる事は死を意味する。 死に至った主人公はまた羅...
不思議な感覚で意識が曖昧、頭にモヤがかかった状態で読むとなんとなく理解できる。そして文豪作家より読みやすいと思ったら少女向けの小説も書いていた作家。羅刹国という夢の中の精神世界とでもいうのか、そこは砂漠で最終を探すため歩き続ける。留まる事は死を意味する。 死に至った主人公はまた羅刹国に戻っていたそこで話は終わるが本当はまだ続くらしいが完結する前に作者が亡くなって未完のまま出版された。 でもこのまま終わっても読み応え充分な作品で羅刹国の描写や主人公の心情は理解できるしもっと深い意味があるという余韻に浸る事ができる。 初期の精神疾患を患っている設定なのか常軌を逸していないので理解不能には至らない作品でした。
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理恵は十二歳のとき、崖から叔父を突き落として殺した。高校生になった理恵は、見知らぬ少年に「人殺しのくせに自分が鬼だと気づいていない」と言い放たれ、自分の額に二本の角が生えているのを知る。それから理恵の夢は角を持つ者たちが互いを貪り合う〈羅刹国〉へと通じるようになった。2000〜2...
理恵は十二歳のとき、崖から叔父を突き落として殺した。高校生になった理恵は、見知らぬ少年に「人殺しのくせに自分が鬼だと気づいていない」と言い放たれ、自分の額に二本の角が生えているのを知る。それから理恵の夢は角を持つ者たちが互いを貪り合う〈羅刹国〉へと通じるようになった。2000〜2001年に発表された作品の初の書籍化。 未完扱いらしいけど本当に続きを書くつもりあったのかな。確かにもう一段深いところへ潜り込んでいくところで終わっているようにも思えるけど、強烈だけど魅力もある悪夢から、灰色で虚無的な現実に着地する宙ぶらりんの余韻が相応しい作品にも思える。空想的な飢えと争いから、現実的な経済と労働へ。羅刹国が単なる現実逃避とは異なるからこそ読後に苦味が広がる。 発表順的には『ペニス』の次の作品だったと知ると、なるほど女子高生版『ペニス』だなという気がしてきてしまう。猥雑な世界を分厚い氷の壁越しに見ているような『ペニス』の文体に対して、本書の文体はじっと水鏡を覗き込んでいる気分になる。それは羅刹国が罪悪感の成れ果てであると同時に、露悪的なナルシシズムの表出だからかもしれない。ただ、水面は時折揺れるだけでひたすら静かだ。 叔父との関係は明確に描写されないものの、「崖から突き落とした」は性的にまなざされることへの抵抗を表しているとも取れる(叔父を好きだったことと、妻の身代わりとして性的な相手をさせられることに同意できるかは当然全くイコールにならない)。情報開示の順序から母親の態度によって引き起こされたかのように思える過食症は、本当はより深いトラウマ——自分が被害者だと認めることすら難しくて、加害者になったと言い聞かせるしかないようなトラウマによるものだという物語なのではないだろうか。同じく角を持つ上級生、教師、精神分析医の人格造形はそれを示唆しているように思う。あるいは角は精神疾患によるスティグマを表すものでもあるかもしれない。 傷つけられたと認めるより傷つける側になるほうがプライドを守れるという矛盾。その捻くれた〈被害者意識〉がピノキオの鼻よろしく伸びていったのが角であり、恐怖と悪意の国を生みだしたということなのか。ボスニアの内戦になぞらえて書かれたと知ってしまうと、今はイスラエルという羅刹国のことを考えずにいられない(連載期間中に911も起きている)。 死に憑かれた少年少女の暗い青春小説として読めば乙一の『GOTH』とも共通するところがあるが、『GOTH』にあるロマンティックな陶酔感は全くない。『羅刹国通信』というタイトルからして、津原先生自身はきっと中井英夫の『人外境通信』を意識してらしたのだろう。このあと『少年トレチア』が書かれたことを鑑みると、中井英夫にとっての戦後のようなものとして世紀末とミレニアムを捉えていたのだろうか。
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彼女には異常であるという正常性バイアスがある 殺したのか殺していないのか 詳らかににすることで得られる正当性 不確定すぎると得られない心の平穏 どちらか一方への依存 妄想なのか現実なのか 薄いブルーグレーの世界 この物語の素晴らしさは筆舌に尽くしがたく、反面、読んでしまったことへの後悔は計り知れない
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解説の方は自己完結的なフィクションだと最初思ったと書いていたけれど、私には最初からこれは社会と人のありようを示した寓話のように思えた。本当は対立がないかもしれないところに二項対立を自ら作り出し、どちらかの側に着くと決めて戦う。それがいつの間にか生きるよすがになっている。多分、そう...
解説の方は自己完結的なフィクションだと最初思ったと書いていたけれど、私には最初からこれは社会と人のありようを示した寓話のように思えた。本当は対立がないかもしれないところに二項対立を自ら作り出し、どちらかの側に着くと決めて戦う。それがいつの間にか生きるよすがになっている。多分、そうしている方が楽だから。でも、その二項対立を超えて次の世界へ至る様がラストシーンなのだろうと感じた。きっとそうする力が、個人にも、社会にも、あると信じたいという気持ちが結実したようなラストだった。読み終えてしばらく、感慨に耽ってしまって動けなかった。きっと折に触れて思い出し読み返す作品になるだろうと思った。(人によって解釈は違うかもしれない)
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