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日本音楽の構造 の商品レビュー

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2024/07/26

・中村明一「日本音楽の構造」(アルテスパブリッシング)は言つてゐることは単純だが、その内容は簡単とは言へない。「日本音楽に顕著な要素は次の七つです。」(21 頁)として、「a微小音量 b 各要素の微小変化 c整数次倍音の変化 d非整数次倍音の変化 eリズムの自由性 f音楽の言語性...

・中村明一「日本音楽の構造」(アルテスパブリッシング)は言つてゐることは単純だが、その内容は簡単とは言へない。「日本音楽に顕著な要素は次の七つです。」(21 頁)として、「a微小音量 b 各要素の微小変化 c整数次倍音の変化 d非整数次倍音の変化 eリズムの自由性 f音楽の言語性・音響性 g各要素の複合性・『間』」(同前)を挙げ、逆に「あまり発展しなかったものが、次の三つの要素」(23頁)だとして、「h音量の変化 iハーモニー j構成」(同前)を挙げる。この7つを曲、音楽に合はせてひたすら強調するのが本書である。だから言つてゐることは分かり易い。問題はそれをどの程度実際の音として理解できるかである。つまり、本書にCDや動画はついてゐない。日本の音楽を手元で聞くことのできない人には、例へば神楽が「屋外など広い場所で行われることが多い(中略)などの理由で、a微小音量 b各要素の微小変化 f 音楽の言語性はそれほど多くない。整数次倍音が優勢。声のd非整数次倍音の変化はそれほど多くないが、打楽器を使うことが多いのでd非整数次倍音の変化全体としては多くなっている。(原文改行)c整数次倍音の変化 d非整数次倍音の変化  eリズムの自由性などが多くなっている。」(170〜171頁)と言はれても、これを音として感じることのできる人がどのぐらゐゐるのか。神楽 ならまだ良い。雅楽、声明、琵琶楽、あたりはどうなのであらう。浄瑠璃の義太夫節、一中節、常磐津節、清元節、新内節の方が分かる人が多いか、少ないか。いづれにしてもここで言及される要素を音として感じる、あるいは確認できる人がどのぐらゐゐるのか、これは甚だ心許ないと思ふ。私自身はこれを確認できるだけの音、音楽を、実は、持つてゐる。本書の著者、中村明一は尺八演奏家である。この人の演奏も探せば出てくる。尺八をほとんど知らないから、曲名を見ても読めなかつたりする。それでもこの人の言ひたいことはかういふことであらうと見当をつけることはできる。さういふことの繰り返しで実際の音と7つの要素が結びついたやうな気になれる。これができてこその本書であらう。 それなのにさういふ音を具体的に用意してないのは本書の最大の欠点である。いや、もしかしたら本書の読者として、さういふ実際の音を聞くことができない人間は想定されてゐないのであらうか。あるいは第二章「日本音楽各論」の「3 現代の音楽、J-POPと日本伝統音楽との関わり」で、美空ひばりや 森進一、桑田佳祐、椎名林檎等に触れ、「特に日本の伝統と強 い結びつきを感じるのは桑田佳祐と椎名林檎。」(244頁) と言つて具体的に7つの要素との関連を述べてゐる。これで代用せよといふのであらうか。 ・私はかういふ内容の書を読むのは初めてであつた。ある意味衝撃的であつた。しかも先の7つの要素の具体的な様から、「じつは日本の音楽は、世界で最も特殊な音楽です。(中略)他の国の音楽と少し異なったシ ステムを持っているということです。」(20頁)と言ひ、「日本の音楽は人類にとって未来の音楽とも言えるのです。」(同前)と言はれても直ちには信じ難いものがある。氏はそれを本書で具体的に述べてゐる。 最後の日本の音楽状況の分析には納得できるものがある。氏は音楽の指導要領策定にも関はつてゐるといふ。理論や創作で触 れたことを実際にそこで述べたのかどうか。私には納得しがた い部分もあつたが、これが実際の演奏家とただの愛好家の違ひなのであらうか。本書は珍しく理論的な書である。そして、この衝撃は実際の音を伴つてこそのものである。音つきにしてほしかつた。

Posted byブクログ