元外交官が大学生に教える ロシアとウクライナ問題 の商品レビュー
題名の「元外交官が大学生に教えるロシアとウクライナ問題」を見て、何となく思ったような雰囲気でもなかったかもしれない。外交官として活動した長い経験を有する著者が、読者層として大学生位の人達を想定して綴ったエッセイというような感じである。 「大学生」とでも言えば、「20歳代に差し掛か...
題名の「元外交官が大学生に教えるロシアとウクライナ問題」を見て、何となく思ったような雰囲気でもなかったかもしれない。外交官として活動した長い経験を有する著者が、読者層として大学生位の人達を想定して綴ったエッセイというような感じである。 「大学生」とでも言えば、「20歳代に差し掛かったばかり」というような年代を思い浮かべると思う。現在であれば、概ね2000年頃、または2003年頃迄に生れたような世代という感であろうか。とすると、個人差が大きく、様々な事情も在るので一般化はし難いとは思うのだが、前述の「大学生」という世代の人達が、例えば「父母が30歳を挟むような年代に生れた」とでも想定すると、父母は概ね1970年を挟む何年間かに生れた世代と推察し得る。その父母の父母、「大学生」の祖父母に相当する人達は、例えば「父母が30歳を挟むような年代に生れた」とでも想定すると、概ね1940年前後に生れているということになる。 本書の著者については「1941年生まれ」となっている。それを視て上述のようなことを想った。本書は「祖父から孫へ贈るエッセイ」という様子かもしれない。 本書の前半部、半分よりやや分量が多い部分は、著者の回顧録という色彩が濃い内容である。 1960年代に外交官としての仕事に就き、研修に参加する日々が在って、現場で様々な経験を重ねることになる。そして個人的な人生の歩み―結婚や娘の誕生や成長―ということも在る。そうしたことが、なかなかに詳しく綴られている。仕事を始めた外交官が研修で経験した事柄、現場に入っての様々な経験と、非常に貴重な証言ともなっていると思う。それらが一つ一つ興味深い。日ソ関係の様々な出来事を「現場」で見聞されている訳で、それらは引き込まれた。 本書の後半部は、外交問題を読み解く知識と目線を有している立場で、目下のロシアとウクライナの問題に纏わる事柄や、「こういう出来事に際しての日本の立場?」というような事柄に関して論じている。 本書では、伝えられているロシア側の主張を判り易く説くような内容を、プーチンが説いている内容を解説している。そして疑問点等も挙げている。こうした判り易い解説は有益だと思う。その是非や好悪は別として、人の命を如何こうしているような出来事の背景で叫ばれている主張は、知識として知ってみようとすべきかもしれないというようなことを思う。 著者は「恒久の平和を念願」、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」というような憲法前文に在る言を想い起し、犠牲が拡大する事態の収束を図ることに資するようなことを考えるべきではないかという意見を述べている。 そして著者は、御自身が参加されていた音楽関係の活動の中、外交官という経験、その人脈や外国語の知識を活かすというようなことで、国際文化交流の促進に携わった経過も豊富に在るようだ。そうした活動を通じ、異なる背景を有する多様な国々の人達が共感する、理解するという経験を積んでいる。それを踏まえて、戦禍の拡がる地域の人達と判り合って明日を拓きたいとされている。それが「祖父から孫へ贈る」という内容なのだとも思う。 加えて、極々個人的なことを申し上げれば、先年他界した自身の父は、本書の著者と同年である。そういうことで、「父の世代の言葉」として興味深く読み、「父が生きた時代の物語」という受け止め方もしながら読んだ部分も多く在る。 何れにしても、目下のロシアとウクライナの問題のようなことに関しては、様々な情報を得ながら考え続け、議論を重ねて、少しなりとも犠牲を抑えられるようにと考えなければならないのであろう。「“平和”ではなく“勝利”」という考え方も在るのかもしれない。が、「2年を超える激しい戦い」は多くの人達にとって「既に長過ぎる?」ということも否定はし悪いであろう。 「小難しい、戦争関係の本」ということでもない。“ソ連”の関係に携わったことのある、外交官として活動をした経過の「祖父」が「孫達の世代」へ向けた判り易いエッセイで、色々な意味で有益だ。御薦めしたい。そして、こういう本がもっと世の中に出て来ても善いというように思った。
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