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軍務局長 武藤章 の商品レビュー

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2024/02/11

武藤章と聞くと、何やら昭和陸軍の黒幕的な存在として悪いイメージが先行しがちである一方、石原莞爾さえその弁で屈服させ、かつ対米戦争回避を謳う現実的で頭脳明晰な存在として認識されている方が多いであろう。斯く言う私も日中戦争の開始に深く関与し、結果的に対米戦争に突入、最終的に敗戦へと向...

武藤章と聞くと、何やら昭和陸軍の黒幕的な存在として悪いイメージが先行しがちである一方、石原莞爾さえその弁で屈服させ、かつ対米戦争回避を謳う現実的で頭脳明晰な存在として認識されている方が多いであろう。斯く言う私も日中戦争の開始に深く関与し、結果的に対米戦争に突入、最終的に敗戦へと向かう道筋を作った重要人物の1人という感覚しか持っていなかった。事実、日本がそうした経緯を踏む間、武藤は優秀な成績で陸大を卒業し、陸軍内で着実に出世を続け、軍務局長にまで上り詰めていく。その意見は時の総理に対してでも言うべきことを言い体制に影響を及ぼすほどの存在となっていく。武藤章を語ろうとすると、兵を率いて鮮やかな戦術を駆使して勝利を呼び込むような軍人としての華々しい経歴は一切出てこず、国の政治を動かし戦局そのものを作り出す立場での振る舞いしか思い浮かばない。本書の中でもそうした現場未経験で出世していくことに負い目を感じる武藤の姿は描かれているが、後世語られる歴史から考えれば、余程多くの兵士を動かし、国そのものを動かした人物としての存在感は、他の陸軍軍人の存在を遥かに凌駕するものであるし、太平洋戦争を語る上で名前が上がらない事はまず考えられない。その様な存在でありながら、前述の様に黒幕的な負のイメージしか持たない私の様な人間は、本書を読み人間「武藤章」を知る良い機会となった。経歴としてはまさに政治の人、そして他人に厳しい態度を取ることが多い中、真に国の行く末を考え、状況に応じた分析と判断を行いつつ全てが思い通りにならずとも、状況改善に奔走した結果、意見のぶつかり合いを招く結果からそうなって(イメージ的にも)しまった事がよくわかる一冊だ。 会社組織においても、例えば営業の現場で華々しく活躍して社長に上り詰めるタイプと、経営企画室のような組織から社長になるタイプがいるが、武藤は勿論後者の存在である。また政治的な動きに長ける人物は概ね他者から実力なくとも昇進する人物に見られがちで、批判的な目に晒される事があるが、まさにその様な存在であったであろう。開戦後はいよいよ念願であった現場に赴く姿もあるが、やはり武藤を語る上では、対米戦争開戦までの動きが中心で、その様な重要な局面での動き方・考え方・発言を知る事から人物像が見えてくる。 本書はそうした武藤章という人間を陸軍軍人として生まれから最終的に巣鴨プリズンで刑場の露として消えるまでを追いかけている。立場上関係者も関連する歴史の出来事も多いが、新書サイズにコンパクトにまとめており、彼を俯瞰的に知る上では非常にわかりやすい本である。またさまざまなシーンと武藤本人の意見、周囲の意見との対立が、本人の言葉や周りの武藤に対する発言などから浮かび上がり、最終的には武藤に対して持っていた政治黒幕的な悪いイメージは払拭されていく。逆に新たに武藤の生き方や、当時の逆らい難い歴史の大きなうねりというものを、更に膨大な登場人物を見ていく事で深く知りたくなっていく。 本書はそうした日本がかつて経験した亡国の危機を理解し、現代の仕事の進め方や生き方に参考にするきっかけになるかもしれない。

Posted byブクログ