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いにしへびとの世界 烏帽子と黒髪(1) の商品レビュー

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2024/09/17

日本の中世(平安時代から江戸の前まで)のジェンダーを「烏帽子」と「黒髪」を通して見るという試み。 一言で言ってしまえば、烏帽子は公世界=男性、黒髪は私世界=女性の象徴と著者は考えている。 平安貴族の間で、烏帽子を人前で脱ぐのは、下半身をさらすような恥ずかしいことという話は結構有...

日本の中世(平安時代から江戸の前まで)のジェンダーを「烏帽子」と「黒髪」を通して見るという試み。 一言で言ってしまえば、烏帽子は公世界=男性、黒髪は私世界=女性の象徴と著者は考えている。 平安貴族の間で、烏帽子を人前で脱ぐのは、下半身をさらすような恥ずかしいことという話は結構有名だ。 しかし、本書ではそれは事の半面だという。 烏帽子は、烏帽子親との絆を形成するものであり、貴族社会のメンバーであることを示す。 烏帽子をかぶっていないのは、下賤の身分であったり、異形の者であることになってしまうらしい。 烏帽子の作り方とか、烏帽子を修理する職人のことなど、これまで知らなかったことを知ることができて、それだけで楽しい。 後半は女性ジェンダーの象徴である黒髪についての論考。 髪の長さは身分の高さを表すという。 本書で紹介される道長の娘たちの髪の長さも半端ではない。 彰子は衣の裾よりも長く、威子は背丈より長く、嬉子は背丈より20センチも長く、妍子は背丈より30センチ長かったとある。 (医学的にはくるぶしまで伸びるのは十人中二人、腰までなら三人、あとは背中まで伸びるかどうかだそうだ) 道長の娘たちのこの記録、誇張もあるのかなぁという気になってくる。 貴族の女性たちは、特に下がり端にこだわった。 絵巻に描かれた庶民の女性たちにも下がり端らしきものはあるが、髪上げをして宮中で奉仕する可能性がある貴族の女性たちには、顔を隠すものとして重要だったという話も面白かった。 ジェンダーの切断面は、やっぱり一筋縄でいかない。 平安中期あたりから、女性の多くは実名もなく(伝わっていないのではなく)、高貴な女性は姿も声も隠される。 家の経済の中で力を持つのも男性になってゆき、貴族の女性が没落するという話も、よく聞く。 本書でも、下の階層では洗濯や医療に関わり、穢れにふれる仕事も女性に割り振られたことを取り上げている。 一方で、愚管抄の記述や、絵巻物の夫婦の描き方をもとに、平安鎌倉期には男女よりも個人の器量(能力)を重んじる考え方もあった、という。 夫亡き後、家刀自として一家を率いる女性もいる。 実際問題、どうだったのだろう。 正妻として子をなし、母でなくては家の長となることはできなかったのでは、と思ったりもするのだが…。

Posted byブクログ