モンテーニュからモンテーニュへ の商品レビュー
レヴィ=ストロースのこれまで出版されていなかった2つの講演記録に監訳者のかなり長い解説というか、論考がついた本。 2つの講演のうち1つは、人類学者として駆け出しの1937年に行われた「革命的な学としての民族誌学」というもの。最近では、若い頃のレヴィ=ストロースは熱心な社会主義者...
レヴィ=ストロースのこれまで出版されていなかった2つの講演記録に監訳者のかなり長い解説というか、論考がついた本。 2つの講演のうち1つは、人類学者として駆け出しの1937年に行われた「革命的な学としての民族誌学」というもの。最近では、若い頃のレヴィ=ストロースは熱心な社会主義者であったということはわりと知られてきているのだが、この講演は、ブラジルの現地調査からパリに一時期帰国中にかつての仲間に人類学への転向理由?を説明するという緊張した状況の中での講演。 レヴィ=ストロースは、自分たちとは違う文化を研究することが社会変革にとってのインスピレーションの源泉になる、というやや飛躍した議論を展開している。今聞くと言い訳ぽく聞こえるが、本人は至って本気だと思われる。 ここでは、構造主義以前のレヴィ=ストロースが、伝播主義的な方法論をベースに、史的唯物論的な文明の単線的な進化という概念を否定して、文化相対主義の立場を明確にする。 この立場は、モンテーニュともシンクロするところで、レヴィ=ストロースの有名な「野蛮というものが存在するという考えこそが野蛮だ」という考えが示される1952年の「人種と歴史」に繋がっていくことになるものである。 2つ目の講演「モンテーニュへの回帰」は、レヴィ=ストロースが人類学者として、大きな研究プロジェクトをほぼ完結した1992年に行った講演。この年は、アメリカ発見500年、モンテーニュ没後400年という記念する特別な年である。 ここでは、人類学というよりは、モンテーニュの「エセー」の「人食い人種について」についての丁寧な文献調査を踏まえた解釈を示している。 功成り名遂げた状態の人類学者が老後の楽しみ的にモンテーニュについて語っている的なムードがありつつも、細かい解釈が進んでいくと、そこから新たな視界が広がっていく感覚が生まれる。 この2つの講演が50年以上の時にもかかわらず、本のタイトル通り、「モンテーニュからモンテーニュへ」ということで響き合っているんだなと思った。 そして、監訳者のこの2つの講演の間にある50年以上の時間をつなぐかなり長い論考が素晴らしい。レヴィ=ストロースの講演はそれほど読みにくものではないのだが、この論考を読むと、私が読み取れていなかったことが大きな文脈の中で分かりやすく説明してある。そして、分かりやすいだけでなく、構造主義として単純化されたレヴィ=ストロースから、はみ出していく魅力がしっかりと言語化されている感じであった。 やはりレヴィ=ストロースって、面白いな〜と思って、また読んでみたくなった。
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