マーリ・アルメイダの七つの月(下) の商品レビュー
この物語の〈はざま〉には様々な死んだ者たちが登場する。無政府主義者、分離主義者、罪なき者、植民地時代の奴隷、少年兵、爆弾テロの被害者、爆弾テロの実行者、犬も豹もいる。その全てが死者であり、全ての死者が語ることはないが、とにかくたくさん登場する。幽霊も悪霊もいっぱい出てくる。〈はざ...
この物語の〈はざま〉には様々な死んだ者たちが登場する。無政府主義者、分離主義者、罪なき者、植民地時代の奴隷、少年兵、爆弾テロの被害者、爆弾テロの実行者、犬も豹もいる。その全てが死者であり、全ての死者が語ることはないが、とにかくたくさん登場する。幽霊も悪霊もいっぱい出てくる。〈はざま〉にいたと思えば生者の住まう現世にひょこっといるのだが、どれだけ死者がたくさん登場しても現世のほうが恐ろしいと感じる。「悪霊を怖れることはない。真に怖れるべきは生きている人間なのだから。」こんな一文が物語後半にあるのだが、まさしくそう感じてしまうような過去の侵略や暴動、現在の対立や武力行使のことが描かれる。特に犠牲となった直接の死者を登場させて描かれるので、まるでどんな死に方をしたのか死者から聞かされているような気になってくる。スリランカの内戦のことを知らずにいた上に現世と冥界ごった煮の物語だったので、この混沌と恐怖は未だにどこか非現実であるかのように思ってしまう。しかし、民族対立による内戦が紛れもない事実だったことは今さらながらしっかりと記憶しておく。 物語の後半でマーリの死の真相は判明する。それはなんともやり切れないものであったが、冥界での語らいでなんとか断ち切れた(?)ようで良かったと思う。物語の中でも重要な戦場の写真。ジャーナリズムの力によって報復の連鎖が断ち切られる世界が訪れますように。
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下巻は第3の月の続きから始まる。現在と過去が交錯し、マーリのこれまでにしてきたことが明らかになる。そして彼が大切に思う人達に危険が迫る。彼のやり残したことは叶えられても世界はなにも変わらなかった。ついに明かされる彼の死の真相は苦いものだったが、1990年という時代を考えればやむな...
下巻は第3の月の続きから始まる。現在と過去が交錯し、マーリのこれまでにしてきたことが明らかになる。そして彼が大切に思う人達に危険が迫る。彼のやり残したことは叶えられても世界はなにも変わらなかった。ついに明かされる彼の死の真相は苦いものだったが、1990年という時代を考えればやむなしか。 時間制限のあるゴーストストーリーに歴史や政治を盛り込み、さらには宗教や愛をトッピングしたなんとも豪勢なごった煮小説である。満足感は高い。 2022年ブッカー賞受賞作。
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スリランカと言えば、マイケル・オンダーチェ『アニルの亡霊』を思い浮かべるが、アプローチとしてはまるで真逆のようでありながら、これもありだなーと面白い。 ヴォネガットを連想したけれど、作者はやはりヴォネガット好きのようだ。
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