クニオ・バンプルーセン の商品レビュー
一人の編集者の人生。良かった。 費やされる時間経過が、記憶の分量に近く感じられて、やっぱり上手い。 端々に著者の文学観が、鋭く展開される。 ここまで言い切れるのは強い。そこに裏打ちされたこの文章かと思わされ、より説得力が増す。 読書をしながら最期を迎えるラストは、本読みの理想だ...
一人の編集者の人生。良かった。 費やされる時間経過が、記憶の分量に近く感じられて、やっぱり上手い。 端々に著者の文学観が、鋭く展開される。 ここまで言い切れるのは強い。そこに裏打ちされたこの文章かと思わされ、より説得力が増す。 読書をしながら最期を迎えるラストは、本読みの理想だ。
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この文体で一つの作品を綴られると、本当に、背筋がのびる。素晴らしい文章だ。 この作品自体が、優れた小説作品論である。 事件は必要なく、人と人との生きた時間があれば良かった。それだけで読ませる技巧の素晴らしさ。 これを手にすることができて、心から幸せだ。
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直球でストライク! 美しくて丁寧でたくましく儚い筆致で クニオという男の生涯をたどれました。 今年のNo1かも!
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米軍戦闘機のパイロットだった父と、基地で働く母との間に生まれたクニオ・バンプルーセンは、日本文学に魅入られた青年に成長する。 クニオは大手の出版社への就職に失敗した後、社長を含めて数人の文芸出版社である泉社に就職する。 泉社の主力出版物は海外文学が多く、入社当初のクニオは翻訳部門...
米軍戦闘機のパイロットだった父と、基地で働く母との間に生まれたクニオ・バンプルーセンは、日本文学に魅入られた青年に成長する。 クニオは大手の出版社への就職に失敗した後、社長を含めて数人の文芸出版社である泉社に就職する。 泉社の主力出版物は海外文学が多く、入社当初のクニオは翻訳部門の仕事に従事していた。 その後、編集者としての経験を積んだクニオは、将来性を感じた女子大生の作家候補を発掘し、編集者として作家に育て上げ、数年後に文学賞を受賞する作品を創り上げた。 また泉社の社長と懇意にしている大物作家からもクニオは信頼を得、その作家が長年にわたって気に留めている無名の作家候補と云える中年男性を紹介された後、クニオの奔走ですんなりと出版に漕ぎ着け、その作品が日本で最も注目度の高い大賞を受賞することになる。 またクニオと同じくハーフの女性翻訳家に依頼した作品は、20年ほどを費やしての共同作業で、完璧と云える翻訳本を完成させもした。 そしていよいよクニオは、小説を書くことを決めた女性翻訳家との共同作業で、自死したクニオの父親ジョン・バンプルーセンに関わる小説に挑戦することを決心する。
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格調高い文体、的確な人間観察、乙川優三郎の小説のそうした魅力にますます磨きがかかっていることを、この新作を読んで実感させられた。 謎めいた題名「クニオ・バンプルーセン」とは、小説の主人公の名前である。 その名前が示すようにクニオ・バンプルーセンはアメリカ人の父親と日本人の母親の間...
格調高い文体、的確な人間観察、乙川優三郎の小説のそうした魅力にますます磨きがかかっていることを、この新作を読んで実感させられた。 謎めいた題名「クニオ・バンプルーセン」とは、小説の主人公の名前である。 その名前が示すようにクニオ・バンプルーセンはアメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれた人である。 黒人米兵である父親はベトナム戦争で戦うパイロットだったことから戦争後遺症に苦しみ続け自ら命を絶ってしまう。 残された母親は福生の米軍基地で働き、女手一つでクニオを育てる。 やがてクニオは成長、大学卒業後は出版社で編集者として歩み始める。 その編集者生活のなかでクニオがどう生きたかを描いたのが、この小説である。 そこで出会った編集者や小説家、翻訳家、さらに担当する小説やエッセイなどの書籍についてのあれこれが魅力的な文体で綴られていく。 今回も期待に違わぬ内容で、小説世界を存分に楽しみ、至福の時間を過ごすことができた。 読んだばかりで気が早いかもしれないが、もう今から次回作が楽しみだ。 ちなみに2013年に初めて「脊梁山脈」で現代小説を書いて以来、乙川優三郎は時代小説はまったく書かなくなってしまったが、またもいちど時代小説も読んでみたい。 もちろんそれが叶わぬ希みだということはじゅうぶんに承知しているが、こういう小説を読むと、ふとそんなことを想ってしまうのである。
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乙川氏は当初よりその格調高さに魂を奪われて久しい。 同じく、氏を愛する人々の多くは「時代小説をなぜ離れたのか・・現代ものは今一つ」と多くが嘆く。 私としては、氏の求めるところが男女間の情愛にあるものが大きいせいか、現代ものもじっくり読ませてもらってきている。 久しぶりの新作、当...
乙川氏は当初よりその格調高さに魂を奪われて久しい。 同じく、氏を愛する人々の多くは「時代小説をなぜ離れたのか・・現代ものは今一つ」と多くが嘆く。 私としては、氏の求めるところが男女間の情愛にあるものが大きいせいか、現代ものもじっくり読ませてもらってきている。 久しぶりの新作、当本を読み、時代劇では描けない広がりを持つテーマをバックにした人間たちの魂のやり取りにのめり込むように読みふけってしまった。 国、外観の容姿などを越えた深奥にある言いようもない味わいはずしんとした手触り。 なるほど・・ファンに、あるいは異論を持つ方々には悪いが、時代劇を軽々著乗り越えて行った氏の想いに触れた感じ。 単行本にするにあたって表題をかように変えた抜き差しならぬ思いれ・・それは装丁にもバシッと体現されている? 好みと言えば申し訳ないが、クニオらしき男性の横顔、えんじ色をバックに浮かび上がる雰囲気は次ページへ、そして真紅! 読み前から打ちのめされて~! 読み始めから一行一行、重いずしっとすつテイストを持った描写ばかり、一行たりとも抜けない張り詰めるものがあった。 父親~黒人兵の彼はニッケルと揶揄され、米国内では使い捨ての軽い存在として遇された・・唯一、一途に愛した妻、真知子との時間だけが癒しとなり、一人息子クニオが添え物のようにすら見えた。 戦後の彼の死、畏敬する三浦の死、そして・・3つの死が描かれる。読み手に取り政登は死に至る現実の徒労にすら見えてくるのは不思議。 それだからだろうか、三浦夫人はもとより母親の死すらあっさりとつまみ者のように書かれているのは一流の死のスノッブ?? 作の最期の方で「日本文学に淫して若さを仕事に労したクニオは、遊びと言えば酒と女性であった」と呟かせている・・・・ふーん、そうなんかと言えばおかしいが~ 氏の独特の文体に性的場面は「微かな匂い」としてしか描かれない・・これは作風のセオリーだろうけど。 だからこそ、推していくと濃密に粘っこい情愛があったのかと見えてきた。 もう一方の核は日本文学・・言葉の、表現の美しさ。 川端文学を引き合いに出し、伊豆の踊子の英訳、日本語を相対させる下りは数回読・・そんな感銘に満ちた市の新作であったみ返した。 どう押していくとこんなに美しい文、表現を書き続けることができるのか・・そんな感銘に満ちた氏の新作であった。
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読む度、やはり他では味わえない時間を過ごすことができるような気がする。 この本もそういう本で、最初に読んだ時からそうだったけれど、なんの抵抗もなく話に入っていけて、その主人公の経験した一生を、追体験できるかのような。 本を読むことは好きでも、書くことも評論することも自分には出来そ...
読む度、やはり他では味わえない時間を過ごすことができるような気がする。 この本もそういう本で、最初に読んだ時からそうだったけれど、なんの抵抗もなく話に入っていけて、その主人公の経験した一生を、追体験できるかのような。 本を読むことは好きでも、書くことも評論することも自分には出来そうもないから、実際にはこのクニオと同じような境遇に身を置くことはできないと思うのだけど、俺が生きたかった一生は、こういうものだったのかもなって読んでて思う位だった。 そんなに劇的な話もなく、ある意味淡々と流れてく話なんだけど、表現、いや言葉が本当に綺麗で。 また早く、この作家の本を読みたいなと。
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新刊が出たら必ず読んでしまう乙川優三郎作品。 いつもながら美しい装丁にうっとり。 “ニッケル”と呼ばれるミサイルの標的となる航空機のパイロットだった米国軍人の父と、基地で働く日本人の母との間に生まれたクニオ。 日本文学を愛し、小さな出版社で編集者として過ごしたクニオが文学と日本...
新刊が出たら必ず読んでしまう乙川優三郎作品。 いつもながら美しい装丁にうっとり。 “ニッケル”と呼ばれるミサイルの標的となる航空機のパイロットだった米国軍人の父と、基地で働く日本人の母との間に生まれたクニオ。 日本文学を愛し、小さな出版社で編集者として過ごしたクニオが文学と日本語に対峙する姿。彼の文学と言葉に対する思いはそのまま作者の主張なのだろう。 作者ならではの磨かれた無駄のない美しい言葉は心地よく、日本語の美しさ、奥深さを思い出させてくれる。 あらすじさえわかればいいというタイパ重視の要約本や、面白さだけを追求するエンタメ作品ばかりを読んでいては決して味わうことのできない魅力を十分に堪能。 ラストシーンの美しさには心が震えました。
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デビュー当時、その清冽な時代小説に嵌り、藤沢周平に次ぐものとして新作を切望する作家さんでしたが、途中から粘性の高い男女の愛憎をテーマにされることが増えて次第に手が出なくなり、現代ものに転身されてもそこは変わらず、すっかりご無沙汰してました。でも10年ぶりくらいかと思ったら、5年ほ...
デビュー当時、その清冽な時代小説に嵌り、藤沢周平に次ぐものとして新作を切望する作家さんでしたが、途中から粘性の高い男女の愛憎をテーマにされることが増えて次第に手が出なくなり、現代ものに転身されてもそこは変わらず、すっかりご無沙汰してました。でも10年ぶりくらいかと思ったら、5年ほど前に『脊梁山脈』『トワイライト・シャッフル』など読んでいました。 どこかでこの本のタイトルを見かけてちょっとした違和感を持ち、調べたら黒人米兵を父に持つ日本文学編集者の一生を描いた作品と知り、読むことにしました。 流石ですね。平易な言葉ながら磨かれた表現。読み易さ故についつい前へ進もうとする眼を押しとどめて、じっくりと味わいながら読んでいきます。登場人物もみんな魅力的です。 恋愛要素も少しあるけれどサラリと描かれ、やはり中心になるのは、日本人離れした容姿だけど、柔軟な構造を持つ日本語の素晴らしさを信じる主人公の編集者としての生き様です。 作家とのかかわり、文章への偏愛、装幀への拘り、そういう編集者の仕事を非常にクリアに描いていきます。まあ、業界内部の人とですからね。ところでこの本の意匠考案は乙川さん。紫がかった赤い表紙に横を向いた黒人の顔、黒い遊び紙。真っ赤な中表紙。背表紙はカタカナ表記ですが、表紙と中表紙に書かれた垰トルはKUNIO VAN PRUISSEN。このあたりの凝った造りは乙川さんの拘りなのかもしれません。 文中にある「佳い小説は字面も美しい、日本語は自然にそうなるようにできている、作家が魂をそそいだ表現で埋まったページは本当に美しい」というクニオの言葉を地で行くような絶品です。
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